×

金子達仁氏 大一番豪州戦、負ければ窮地 日本代表はリアリストに徹することができるか

[ 2022年3月24日 06:00 ]

W杯アジア最終予選B組   日本―オーストラリア ( 2022年3月24日    シドニー )

ランニングで調整する吉田(中央)ら日本代表イレブン(撮影・小海途 良幹)
Photo By スポニチ

 絶対に負けられない戦いが、そこにはある。ただ、勝利が必須かといえばそうではない。24日の最終予選オーストラリア戦。アウェーで日本代表が勝てば7大会連続のW杯出場が決まる。スポニチ本紙で人気コラム「春夏シュート」を執筆しているスポーツライターの金子達仁氏(56)が、決戦を前に「特別編」を寄せた。全員が「W杯」のために「リアリスト」になれるか――。金子氏の視線はその一点に注がれている。

 負ければ終わる。引き分けでもほぼ終わる。決戦を前に、オーストラリアがやらなければならないことは明白だ。

 勝つ。それだけ。

 ではいかにして勝つか。おそらく、オーストラリアのスタッフはそのことだけに焦点を絞り、策を練っていることだろう。簡単なことではないが、しかし、単純なことでもある。

 難しいのは日本だ。

 勝てば文句なし。引き分けでもほぼ文句なし。サッカーに存在する3種類の結果のうち、1種類しか許されないのがオーストラリアだとしたら、日本は2種類を選択できる立場にある。

 これが、なかなかにややこしい。

 結果に対して徹底的にリアリストであり続けてきたイタリア人であれば、今回のような試合は何も迷うことはない。あわよくばの毒針一撃は用意しつつ、基本的には退屈な試合、互いに好機の少ない展開に持ち込むことで集団の意識は統一されている。

 逆に、歴史のほとんどをロマンチストとして過ごしてきたブラジル人であれば、有無を言わさず勝ちを目指すのではないか。過去、不必要とも思える攻撃精神が大惨事を生んだこともあるが、それでも攻めるからこそブラジルのサッカーは世界から愛されてきた。そして、そのことをブラジル人は知っている。きっと、彼らは攻める。

 では、森保監督はどう出るか。

 先日、元日本代表の佐藤寿人さんにお話をうかがう機会があった。行くか、行かないか。森保監督をよく知る彼に聞いてみた。

 「行かない、と思います。森保さん、勝負がかかったところでは徹底してリアリストですから」

 広島時代のエピソードを聞いて納得した。敵地での決戦、森保監督が重心を後ろに置いた戦いを選択する可能性は高い。

 問題は、選手たちもリアリストになっているか、である。

 リアリストとロマンチスト。両者の間に優劣はない。ただ、リアリストの中に一人でもロマンチストが混じると、あるいはその逆になると、チームは壊滅的な打撃を被ることがある。

 報道されている選手のコメントの中には「勝って決めたい」というニュアンスのものがいくつかあった。その気概は歓迎すべきものだし、ひょっとしたら、本音ではなく建前を並べただけ、という可能性もある。

 だが、もしその中に一人でも本音で話している選手がいたら、それはチーム内に危険な意識のズレが存在することを意味する。森保監督がどのようなやり方を選択するにせよ、こうしたズレだけは試合前に埋めておかなければならない。

 そして、もし本当に森保監督がイタリア人的な選択をするのであれば、それはそれで不安な部分もある。

 果たして、そうした戦い方を日本人ができるのだろうか、という不安である。

 絶体絶命の状況で最大の力を発揮するのは、極論してしまえば、さして難しいことではない。だが、引き分けも許されるという状況は、いろいろな意味で選手たちの手足を縛る。

 二兎(にと)を追う者は一兎も得ず、という諺(ことわざ)が日本にはある。一方で英語には、二兎を追う者だけが二兎を得るという格言がある。果たして、森保監督はどちらを選んだのか。そして、何を選んだのか。まずは、開始10分の戦い方に注目したい。(スポーツライター)

 ▽日本のW杯出場決定条件 最終予選B組は現在の上位3カ国で本大会自動出場の2枠を争っており、3位はプレーオフに回る。現在2位の日本は次戦で3位のオーストラリアに勝てば2位以上が確定し、本大会出場が決まる。引き分けならオーストラリアとの勝ち点差は3のままで、29日の最終戦ベトナム戦に引き分け以上で出場が決定する。敗れると勝ち点18で並び得失点差で3位に転落し、その時点で自力出場が消滅。ただし同日(日本時間25日未明)にサウジアラビアが中国に引き分け以下なら自力出場が復活する。

続きを表示

この記事のフォト

2022年3月24日のニュース