【内田雅也の追球】重盗阻止の「投手返し」 1点もやらないという姿勢に垣間見えた堅実さ

[ 2023年2月11日 08:00 ]

挟殺プレーの練習後にナインを集めた岡田監督(左から3人目)(撮影・岸 良祐)
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 沖縄の天気は変わりやすい。朝9時前、青空の下、宜野座村野球場で阪神ヘッドコーチ・平田勝男が走り回っていた。

 「来る来る。10時に来るよ」。遠く西の方に小さく黒い雲が見えた。

 球場へ移動中の監督・岡田彰布に電話を入れ、スケジュールの修正を進言していた。阪神園芸に連絡、コーチ陣に指示を与えた。「今日の練習でメインになるのはランダウンプレーなんよ。これを生かすメニューにしないとあかんからね。監督に相談していたんよ」

 メニュー表にある「チームプレー」を早めに宜野座ドーム内で行うように調整したのだった。

 すると、平田の天気予報通り10時にポツポツ、ザーッ、ゴーッときた。あたりが白く煙っている。白雨(はくう)と言うのだろう。南の島のシャワーである。

 「メイン」となる挟殺練習は、ドーム内で雨音を聞きながら、じっくり行われた。臨時コーチ・鳥谷敬が走りながらのショートスローの要領を指導していた。それも投手陣に行っていた。

 さて、この挟撃(挟殺)プレーで昨年までとは違う特徴的な点がある。一、三塁での重盗阻止で捕手の送球はすべて「投手返し」ばかりなのだ。

 昨年までは捕手がブロックサインを出し、送球先は(1)中継の二塁手、(2)二塁カバーの遊撃手への直送、さらに(3)守備位置を動かない遊撃手(または二塁手)と3カ所あった。「投手返し」はなかった。岡田が「やっぱり、ピッチャー返しはいるやろう」と提案し、復活させたのだった。

 しかも、今キャンプ3度目となる重盗阻止練習で、捕手のサイン発信は行わず「投手返し」ばかりを繰り返している。少年野球でも行う練習だ。

 「ピッチャーカットというのは――」と練習直後、選手たちを集めて岡田は意図を説明した。「――一、三塁を二、三塁にしてもええから、点をやらないということや」。1点もやらないという姿勢である。

 もう一つ、この挟殺プレーでは走者を2人とも刺す練習がある。飛び出した三塁走者を挟撃中、三塁進塁を狙う一塁走者をまず刺し、再び三塁走者を挟殺する。決まれば絶好の併殺だが、失敗や失点の危険性を伴う。

 岡田はこうした「あわよくば」を嫌う。欲張りや楽観を禁じる。自ら「マイナス思考」「悲観主義」と認める堅実さが垣間見えた。=敬称略=(編集委員)

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2023年2月11日のニュース