【内田雅也の追球】「ホール」の一球、一戦 猛虎らしく、思い切った勝負を見たい  

[ 2022年10月10日 08:00 ]

セCSファーストステージ第2戦   阪神0―1DeNA ( 2022年10月9日    横浜 )

セCS1<D・神>5回、大和の中前打の打球を近本がバックホーム(撮影・篠原岳夫)
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 英語のホール(hole)には「穴」の他に「苦境、窮地」といった意味がある。最近は聞かれないが、3ボール―2ストライクのフルカウントで、実況アナウンサーがよく「ピッチャー、バッター、ともにイン・ザ・ホール――」と言っていた。投手も打者も窮地に追い込まれ、もう後がない状況を指す。

 わずか2安打、14三振を喫して零敗した阪神はフルカウントになった打者がのべ10人もいた。山崎康晃に対した9回表は3人ともそうだった。

 結果は、近本光司中前打、中野拓夢遊ゴロ内野安打はあったが、他の8度は5三振と凡ゴロ3本だった。四球すら奪えなかった。ボール球を振ったのは初回先頭の中野と5回表の大山悠輔の2三振で、後はストライクを打ち返せなかったのだ。

 ともに「ホール」にあって「この1球」の勝負に敗れたわけだ。力負けを認めるしかない。

 勝負はきょう10日の第3戦に持ち越された。ともに勝てばファイナルステージ進出、ともに負ければ今季が終わる崖っぷちに立ったわけだ。フルカウントと同じである。「ホール」の状態で「この一戦」に向かう。

 監督・矢野燿大がキャンプイン前日に今季限りでの退任を表明してから8カ月。冬から春、夏、そして秋と季節を越え、集大成の一戦を望む。

 幸いにもよく守れている。2点目を防いだ近本の本塁好返球(5回裏)や糸原健斗の三塁線ゴロ併殺(7回裏)はもちろん、佐藤輝明の素早いクッションボール処理(5回裏、7回裏)も隠れた好守だった。凡打疾走も全員ができている。

 7回表無死一塁での中野もよく二盗を決めた。送りバントもあるなか、初球からピッチアウトされたのは、作戦やサインが読まれているのかという不安が残る。よく整理して決戦を迎えたい。

 きょうの決戦にもし負けた場合、試合後、大阪に帰る予定でいる。チームは帰り支度を整えて一戦に臨む。高校野球ではこうしたチームがよく勝ち進んでいる。池田(徳島)の名物監督だった蔦文也は毎試合、旅館を出る際に荷物をまとめてから甲子園に向かった。

 「ホール」の一戦。虎穴に入らずんば虎子を得ず、というではないか。猛虎らしく、思い切った勝負を見たいと願っている。 =敬称略=(編集委員)

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2022年10月10日のニュース