【内田雅也の追球】屈辱の中で得た教訓 愚直で誠実な姿勢にこそ浮上のカギはある

[ 2022年4月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2ー3広島 ( 2022年3月31日    マツダ )

<広・神(3)>2回、遊ゴロで懸命に走った阪神・秋山が併殺を免れ、先制点を挙げる(撮影・大森 寛明)
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 開幕6連敗は87年に及ぶタイガースの歴史上最悪の記録である。伝統ある老舗球団として屈辱である。責任追及などしないが、監督・矢野燿大もオーナー以下球団首脳も弁解はおき、事の重大さを認識すべきである。

 この夜も2点先行しながら逆転された。今回の3連戦を含め、逆転負けが4試合もある。

 先発投手が軒並み崩れる「魔の6回」、降りだした雨のなか、秋山拓巳が決勝点を失った。継投策に問題はあったか。いや、そうは思えない。

 打線は7回まで毎回10安打を放ちながら2点止まり。得点圏で13打数2安打(梅野隆太郎、佐藤輝明)2四球とチョーク(窒息)状態。投打がかみ合っていない。

 気休めではなく、過去には開幕6連敗しながら優勝したチームがある。1960(昭和35)年の大洋(現DeNA)だ。前年まで6年連続最下位で新監督に西鉄(現西武)を3度日本一に導いた名将、三原脩を迎えていた。「三原マジック」の「奇跡」と呼ばれた。

 どうして浮上したのか。早大出の新人二塁手、近藤昭仁は「ちゃんとした野球をやり始めた」と語っている。村瀬秀信『4522敗の記憶』(双葉文庫)にある。「バントの場面ではしっかり決め、エンドランもきっちり転がす。やるべきことをきちんとやった」。さらに「打つ方はあてにならないから計算できる守りだよね」と守備の重要性も示していた。

 いまの阪神にも通じる教訓と受けとめたい。特別なことではなく、やるべきことをやる。愚直で誠実な姿勢にこそ浮上のカギはある。

 その点で2回表1死満塁、投手・秋山が遊ゴロで併殺を免れ1点を奪った力走があった。3回表2死一塁、三ゴロで一塁走者・佐藤輝は二封されたが間一髪だった。リード、第2リード、スタート、力走、スライディングと懸命だったことが分かる。5回裏には勝ち越し走者を本塁で刺したメル・ロハスの好返球もあった。勝利と浮上への萌芽(ほうが)はある。

 「勝利の女神は謙虚さを好む」と何度か書いた。謙虚に前を向きたい。

 月がかわる。女神を思い、サイモン&ガーファンクルの『四月になれば彼女は』を聴く。「四月がやって来ると彼女も――」と歌っている。
 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年4月1日のニュース