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米子東 甲子園は出るための舞台から勝つための舞台に いつだって本気、秀才軍団の取り組み

[ 2021年12月29日 14:06 ]

2022年夏の甲子園で3大会連続出場を目指す米子東ナイン
Photo By スポニチ

 土砂降りの雨にも負けず、計40キロの道のりを全員が歩ききった。2022年夏、甲子園で勝ち進むという願いを叶えるために――。鳥取県内屈指の進学校で知られる米子東。1年生13名、2年生12名の野球部員には、進学校から連想されがちなひ弱なイメージは一切当てはまらない。同校から勝田神社までを45往復したのは、25日にあった練習納めでのこと。数日前から逆算し、「勝つ」ことに関わりがある「正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(まさかつあかつかちはやあまのおしほみみのみこと)」を御祭神とする当社への御百度参りをやり遂げた。そう、秀才軍団は、いつだって本気なのだ。

 「最終日は毎年、40~50キロ歩きます。今年は6、7時間ぐらい。合宿先から歩いて帰る年もあれば、秋の大会で境高に負けた年は境高の正門を見て帰ってきたこともありました。本当にしんどいですよ。でも、いろいろな意味があるので毎年歩いています」

 紙本庸由監督の言葉からは、明確な意図が伝わってきた。2013年の8月から母校の監督に就任。同年夏まで夏の鳥取大会で6年連続初戦敗退中だったチームを、どん欲に知識を吸収する意欲と周囲を引きつける情熱で再建した。19年春の選抜で23年ぶりとなる甲子園大会出場。以降、同年夏、21年夏と聖地の土を踏みしめた。

 「全国で勝っていけるだけのフィジカル、スキルを身につけることを念頭に日々過ごしています。その上で、自分たちが身につけたものを本番で発揮するための自己肯定感と自己効力感を高めるための取り組みをする。甲子園に出たいという意識だけで、野球をやっている姿は見受けられません。甲子園で勝とう、日本一になろうとずっとやってきたけど、甲子園に出る前と実際3度出た今とでは同じことを口で言っていても、心の底から思っているのかどうかは、本当にガラッと変わった。その背景にあるのは、僕の指導力うんぬんというより“練習とはこうあるべきだ”“練習とはこういう雰囲気でやるものだ”“ここまで突き詰めるものだ”というものがチームの文化として大分根付いてきたという部分。新入生も最初はしんどいですけど、そこに合わせてくる。チームの空気、文化が1年生を育ててくれいます」

 米子東にとって、甲子園は出るための舞台から、勝つための舞台に変わった。この時期、全体練習は平日で長くて2時間半。土日祝日でも最長で5時間程度だ。ただ、進学校である以上、野球に打ち込むからといって、勉強を疎かにすることはありえない。睡眠時間を確保するべく、授業の合間にある10分間の休み時間は、各選手とも予習復習に当てている。

 では、限られた時間のなか、勝ちきれるのはなぜか。まず、食への意識が圧倒的に高いことが挙げられる。アスリートが一日に必要とするタンパク質の量を、部員全員が熟知し自己管理する。家族もサポートを惜しまず、朝夕食はもちろん、学校に持たせる弁当まで栄養管理を徹底。その甲斐あって、今夏の甲子園49代表校で登録18選手の身長比体重の平均値はNo・1だった。フィジカルも同様で、20項目を定期的に測定。その都度、達成度を知ることで、各選手が不足分をトレーニング、エクササイズに落とし込み数値は段階的に上昇。故障防止を念頭に取り組むパルクールからは、高い身体操作性を手に入れた。

 今夏の鳥取大会では6人の2年生がスタメンに名を連ねた。決勝で初めて4番を任された太田舷輝は準決勝・鳥取東戦の3発を含む5本塁打。中軸を務めた瀬川凜太郎も打率・563をマークした。同大会でのチーム打率は実に・434。経験豊富な野手陣に加え、甲子園大会の初戦・日大山形戦で2番手として好投した藪本鉄平を主戦に据えた今秋も優勝候補とみられていたが、新チームの発足が遅れたことで鳥取大会2回戦で姿を消した。紙本監督は言う。

 「ショックは大きかったと思いますが、意味がある敗戦だったかどうかは自分たちが夏にどんな結果を残すかによって大きく左右されるもの。“あの負けがあったからと言える未来をつくろう”と」

 秋季大会後は新型コロナウイルスの感染拡大が下火になったこともあり、練習試合を数多く組むことができた。実戦を通じて新戦力が台頭。1年生右腕・後藤和志が好投を続け、春以降の貴重な戦力としてめどが立った。藪本が起用されるケースが大半だった2番にも1年生が割って入る勢いで、エースでもある藪本の負担軽減につながる。攻守両面における戦力の底上げに、指揮官は「選考に悩むほど、2年生と対等にやれる1年生が出てきています。2年生はウカウカしてられません」と手応えを強調。秋は不振だった1メートル85の長身右腕・山崎壮が本来の姿を取り戻せば、投手陣も強固な布陣ができあがる。

 「全国の公立高校、公立進学校の仲間たちに自分たちもできるんだという気持ちになってほしいし、野球部だけじゃなく他の部活にとっても自分たちでもできる活力になる。こういう使命があると思って生徒とともに頑張ります」

 紙本監督が率いた3度の甲子園大会はいずれも初戦敗退。だが、全国で悔しい敗戦を経験するたびに、チームは一回りも二回りも成長してきた。校歌の一節にある「世の灯の使命享け」。その歌詞を体現し、私学全盛の高校球界に風穴を開けることになれば、これほど痛快なことはない。

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