震災当時のスポニチ福島支局長が感じた10年 聖光学院・斎藤監督と未来へ種まく「雪うさぎ」

[ 2021年3月12日 05:30 ]

福島・吾妻小富士の「雪うさぎ」
Photo By スポニチ

 スポニチは、全国のスポーツ紙で唯一、「福島版」を発行する福島支局を構える。当時、支局長だった福澤孝哉編集局次長(53)が感じた10年とは。

 「雪うさぎ」を10年前に教えてくれたのは福島・聖光学院の斎藤智也監督(57)だった。

 「支局長、福島の人はあれを見ると春が来たと思うんですよ」

 春先、福島市内から望む吾妻小富士の山肌に残る雪がうさぎの形に見える。農民に種をまく時期を告げることから「種まきうさぎ」とも呼ばれている。

 当時は山を眺める余裕もなかった。3・11の記憶は恐怖と寒さしかない。生まれて初めて死を感じた瞬間。直後に降りだした雪。停電、断水。資料や備品が散乱する中、震えながら支局の硬いソファで一夜を明かした。

 その後、原発事故の影響が拡大し、支局は閉鎖寸前まで追い込まれた。県版は休止となり、福島発の原稿を本紙の社会面に送り続けた。県版再開は3月21日付。最初の記事は聖光学院野球部による避難所での支援活動だった。

 放射線を測定する線量計を首から下げて避難所を回った。浜通りの荒涼とした景色を前に言葉を失った。今では全国屈指の強豪校となった聖光学院も当時は野球どころではなかった。10年という数字にどんな意味があるのかは分からない。ただ、あの絶望から今日に至る中で一昨年、戦後最長となる13年連続夏の甲子園出場を決めた同校の活躍に勇気づけられた人々は少なくないと思う。

 「雪うさぎ?毎日、眺めてますよ。(野球部は)夏までには時間もあるんで、じっくりやって、また花が咲けばいいよね」

 スマホから聞こえる斎藤監督の福島なまりは10年前と変わらない。今年は例年よりも早くうさぎが姿を現したという。復興への道のりは遠い。それでもまた春が来た。福島には、東北には、未来へ種をまく人たちがいる。

続きを表示

2021年3月12日のニュース