楽天アカデミー所属の少年が3歳で壮絶体験 避難先を津波が襲い、体調悪化で病院搬送

[ 2021年3月12日 05:30 ]

後藤さん一家(右から新悟さん、直太郎君、真知子さん、暖佳さん
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 野球のおかげで、前を向くことができた。宮城県東松島市の会社員・後藤新悟さん(50)は一家で熱狂的な楽天ファン。シーズン中はナイター中継を見ながら食卓を囲み、楽天が勝てばお父さんの晩酌が1本増える。そんな仲良し家族は10年前、壮絶な体験をした。

 長男・直太郎君は当時3歳。海岸から約200メートルの野蒜(のびる)保育園で大きな揺れを感じた。500メートルほど離れた野蒜小に避難したが、近隣住民も身を寄せた体育館が津波に襲われた。波をかきわけ、必死にステージの幕をつたい天井付近の周回通路へ。九死に一生を得たが、直後に体調が悪化し石巻赤十字病院に搬送された。

 両親は避難したこと、病院搬送されたことも知らないまま不安な日々を過ごした。家族全員で再会したのは4日後。体育館では約20人が亡くなったと後に知った。直太郎君は「3月11日のことは全く覚えていなくて、お父さんとお母さんから聞いて知りました。それを聞いた時は怖いなと思いました」と話す。

 小4から地元のスポーツ少年団で野球を始めた。「もっとうまくなりたい」と、中学進学後は楽天が運営する「イーグルスアカデミー仙台本校」に通い始めた。右打ちの内野手。昨季の本塁打王・浅村の大ファンで「僕もチームから信頼される選手になりたい」と目を輝かせる。

 13年の日本一は、立ち上がるパワーをくれた。「もう一度、踏ん張ろうという気持ちになれた」と新悟さん。直太郎君も「今年もまた優勝してほしい」と願いを込める。

 日本一を決めた直後の13年12月、東松島市に新たな居を構えた。10年前に津波に襲われたアパートから数百メートル。頻繁に観戦には行けないが、自宅から「頑張れ!」と声援を送る。東北のある家族のかけがえのない日常。そのエールも、きっと選手たちに届いているはずだ。(重光 晋太郎)

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2021年3月12日のニュース