リオ五輪ゴルフ 丸山茂樹日本代表ヘッドコーチが破ったルールとは

[ 2016年9月1日 09:00 ]

リオ五輪で日本代表ヘッドコーチを務めた丸山茂樹

 【福永稔彦のアンプレアブル】リオ五輪でゴルフの日本代表ヘッドコーチを務めた丸山茂樹(46=サガサミーホールディングス)は大会前に1つのルールを作り自分に課した。

 「自分からはアドバイスしない」

 プロゴルファーには個別のコーチがいる。助言すればコーチに失礼だし、選手も迷う。考えた上での結論だった。ただ、悩んでいる選手を眺めているわけにもいかない。丸山は「選手が聞いてくれば何でも答える」とも話した。難しい立ち位置だが、そうしようと決めてリオに入った。

 しかし、1度だけそのルールを破った。

 男子の片山晋呉(43=イーグルポイントGC)は第1日に74、第2日に75をたたいて60人中58位に沈んだ。パットの不調が原因だった。

 第2日、ある人物が丸山に歩み寄った。91年全英オープン覇者イアン・ベーカーフィンチ(55=オーストラリア)。日米のツアーで戦った旧友は母国のキャプテン(監督のような役割)としてリオに来ていた。ベーカーフィンチは言った。

 「片山はパットの時に左足が外側を向いている。内側に向けた方がいい」

 相手国の指導者が助言してくれるなんて他競技も含め、いかなる国際大会でもありえない。丸山の人脈、人柄があってこその“奇跡”だ。それでもヘッドコーチはかたくなにルールを守り、その助言を胸にしまった。

 第3日、片山は77の大たたきで最下位に後退した。ショットはそれほど悪くないのにグリーン上で精彩を欠いていた。日大ゴルフ部の後輩が苦しむ姿を歯がゆい思いで見ていた丸山はついにルールを破る決断をした。「もう上に上がるしかない。1つのヒントになればいい」。第3ラウンド後、ベーカーフィンチの言葉を片山に伝えたのだ。

 最終日、片山は66の好スコアをマークした。ホールアウトした片山は丸山にこう言った。

 「先輩の一言が大きかったです」

 大会前、丸山は「ヘッドコーチだけどやることなんてないよ」と自嘲気味に言っていた。しかし丸山には自分にしかできない仕事があり、その役割をしっかりと果たしていたのである。

 帰国後、丸山のもとに手紙が届いた。差出人は片山だった。2枚の便せんには、丸山への感謝の気持ち、日本代表として戦ったことに対する誇り、使命感、熱い思いが毛筆で綴られていた。

 「辞退した人間を責めることはできない。でも気持ちよく出場してくれた選手たちには心から感謝している。(片山)晋呉も日本の代表として頑張りたいという気持ちで戦った。手紙をくれて本当にうれしかった」と丸山の胸も熱くなった。

 リオ五輪に出場した男子の片山と池田勇太(30=日清食品)は、世界ランキングで上位だった松山英樹(24=LEXUS)、谷原秀人(37=国際スポーツ振興協会)が辞退したことによって選出された。そうした経緯もあったからこそ余計に感謝の気持ちがわいてきた。

 ルールは破った。しかし、そのことによって選手を救うことができた。そして、絆が深まった。丸山の判断は間違っていなかった。(専門委員)

 ◆福永 稔彦(ふくなが・としひこ)1965年、宮崎県生まれ。宮崎・日向高時代は野球部。立大卒。Jリーグが発足した92年から04年までサッカーを担当。一般スポーツデスクなどを経て、15年からゴルフ担当。ゴルフ歴は20年以上。1度だけ70台をマークしたことがある。

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