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【コラム】金子達仁

個人に頼らない町田 後半戦も台風の目に

[ 2024年6月27日 07:00 ]

福岡戦後、ハイタッチする町田・黒田監督(中)(撮影・西海健太郎)
Photo By スポニチ

 先週末、度肝を抜かれるゴールがJリーグであった。浦和対鹿島。1―2で迎えたアディショナルタイム。敵陣左サイドの深い位置でFKを得た浦和は、ほぼ全員がペナルティーエリアに入り、もちろん、鹿島もそれに対応する。キッカーは武田英寿。見ている人の99・9%は、クロス系のボールが入ってくることを予想したはずである。

 ところが、武田は直接狙った。クロスを入れるとしか思えないプレ・アクションから、ダイレクトでニアサイドを狙った。彼の名前は中田英寿からきたものだそうだが、どちらかというと中村俊輔としか思えないフォームから繰り出されたキックは、そのままネットに吸い込まれた。たまげた。この場面を目撃した世の中のお父さん、お母さんの中に、自分たちに子供が生まれたら「英寿」と名付けよう、と考える人が出てくるのではないか。本気でそう思ってしまうような超絶弾だった。

 荒木大輔さんの活躍が、松坂家に生まれた男児の名前を決定づけたように、日本の場合、時代ごとに流行する名前というものが確実にある。ただ、これは命名の幅が恐ろしく広い日本ならではの現象なのだと個人的には思っていた。

 なので、ちょっと謎なのがブラジルである。

 Jリーグだけを見ても、ヴェルディにいて、マリノスにいて、ジュビロにもいる。J2にもいる。昔はそんな名前のブラジル人選手は一人もいなかったのに、いまはやたらといる。

 マテウスである。

 昔はいなかったのに、いまはいる。おそらくは、元ドイツ代表のローター・マテウスの影響かと思われる。ただ、本家本元のマテウスは名字であり、名前はローターである。当然、大輔も英寿も名前。なぜブラジルでは、ひとつの名字がこんなにも増殖しているのだろう。

 大体、Jリーグの登録名を見ても、ヤン・マテウスだったり、マテウス・ペイショットだったり、ただのマテウスだったりと、名字なのか名前なのかあだ名なのかが判然としない。同じ時期に2大会連続でマテウスとW杯決勝で相対したマラドーナの名前がまるで増えていないところあたり、ブラジルとアルゼンチンのライバル関係が垣間見えて面白いが、とにかく、なぜこんなことになったのかがわからない。理由のわかる方がいらっしゃったら、ぜひともご教示いただきたい。

 さて、シーズンの折り返しを迎えたJリーグ、前半戦もっとも多くの驚き、話題をもたらしたチームといえば、やはり町田だろう。

 J2から昇格してきたチームが1位で前半戦を終えること自体、史上初の快挙だというが、アウトサイダーとみられていたチームの躍進ということであれば、古今東西、例がないわけではない。

 ただ、いわゆる“ミラクル”と呼ばれるような優勝には、爆発的な得点力を発揮する個人が不可欠。15~16シーズンのレスターにバーディーがいたように、である。

 ところが、いまの町田には得点ランクのトップ5に入っている選手はいない。それでいながらの得失点差プラス15は、個人の決定力ではなく、チームの総合力で点をとってきたことを意味する。

 対戦相手からの研究が進むことで、町田にとってこれから難しい試合が増えることは間違いない。それでも、特定の個人に頼るわけではない彼らを止めるのは、簡単なことではない。後半戦も、町田は引き続き台風の目であり続けるとわたしはみる。 (金子達仁=スポーツライター)

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