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【コラム】金子達仁

オナイウは大迫の控えではない ライバルである

[ 2021年6月16日 10:00 ]

<日本・キルギス>前半27分、オナイウがPKを決め、仲間から祝福を受ける(撮影・篠原岳夫)
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 駆け出しだったころ、先輩記者から指摘されたことがある。

 「これ、ハットトリックじゃねえぞ」

 1試合で3点取ることがハットトリックだと信じて疑っていなかったわたしは、(1)ハーフタイムをはさまない45分のうちに(2)他の選手の得点もはさまず(敵味方を問わず)(3)一人の選手が連続して3点を決めること――こそが真のハットトリックなのだと、その時に教えられた。

 というわけで、初のスタメン起用で正真正銘のハットトリックを達成したオナイウは見事というしかない。セルビア戦のあと「次の機会で得点できるかで人生が変わる」と書いたが、少なくとも、代表における彼の立ち位置は劇的に変わった。これからのオナイウは、もう大迫の控えではない。

 ライバルである。

 興味深かったのは、前半の日本が、オナイウに点を取らせるためにやっているのか、と言いたくなるようなサッカーだったこと。左右のサイドアタッカーは徹底してオナイウを狙い、絶好のシュートエリアに走り込んだ原口は、あえてスルーしてオナイウにチャンスを譲った。

 オナイウが呼んだのか、それとも、出し手から見たオナイウの動きが非凡だったのか。とにかく、これほどまでに一人の選手にラストパスが集中した試合は、ちょっと記憶にない。後半に入ると、びっくりするほどその気配が消えてしまったのは残念だが、森保監督からすれば、望外のオプションを手に入れた気分だろう。

 新たな武器、ということでいえば、右サイドを暴れ回った坂元、山根の関係性も魅力的だった。

 特に、速さや強さではなく、柔らかさで相手の逆をとっていく坂元は、大柄な外国人DFの多くが苦手とするタイプでもある。受け手の特徴やタイミングの好みがわかってくれば、より一層、相手にとっては危険な存在になる。

 いずれにせよ、すでに最終予選進出を決めた状況でありながら、誰一人緩んだところをみせず、貪欲にボール狩りを続けたところは高く評価したい。相手にシュートを打たせないスタイルは、この1年で完全に日本代表に浸透した。以前とは違い、メンバーが代わっても質が落ちなくなってきているのも嬉(うれ)しい。

 2次予選全般を通じて感じたのは、ジャッジの見え方、感じ方が変わってきたかな、ということだった。

 前回大会の予選では、わたしが審判に感じる最大のストレスは「え?それを取らないの?」だった。

 今回は違った。

「え?それ取るの?」

 両チームの選手が激しく身体をぶつけ合う。4年前のわたしは、たとえ2次予選であっても、アジアのライバルの激しさを「過剰」だと感じていた。

 ところが、今回の予選では笛を吹かれてびっくり、という場面が何回もあった。これはもう、Jリーグ効果というしかない。W杯本大会での敗北を受け、リーグ全体で激しさに対する許容度を増やすべく、判断基準を欧州に合わせたことで、日本人の感覚もまた変わりつつある。

 まだどこが出てくるか、どこと当たるかわからない最終予選について触れるのは、今日は止(や)めておこう。ただ、日本が身につけつつある獰猛(どうもう)な守備は、すでにアジアの枠を逸脱しつつある。

 それだけは、断言できる。(金子達仁氏=スポーツライター)

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