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【コラム】金子達仁

“チートキャラ”鎌田に度肝抜かれた

[ 2020年11月16日 11:00 ]

 パナマの選手たちはずいぶんと驚いたに違いない。特に前半は。

 2年前に戦った日本と、あまりにも違いすぎて。手も足もでなかった相手が、ずいぶんと劣化していて。

 2年前、日本の中心には青山がいた。味方からのボールは安全にサイドにさばき、インターセプトしたボールは間髪入れずに縦を狙った。これぞボランチ、というプレーを見せた青山を中心に、日本はワンサイドゲームを展開した。スコアは3―0。パナマにできたのは、必死に耐えることだけ、だった記憶がある。

 前半の日本に、青山はいなかった。青山的な働きをする選手もいなかった。中盤に軸、目標を見いだせなかった日本の選手は、おのおのが必死に、しかし勝手に動き、連動性のかけらも感じさせない試合をやった。もし、これが森保監督の就任初戦の試合だったら、わたしは代表の未来に絶望していた。

 慎重と遠慮がすぎるばかり、つい深めな位置取りをしがちだった橋本に代わり、遠藤が入ったことで流れは変わった。ボールが最終ラインにあるときは無難なつなぎ役として顔を出し、相手ボールの時には獰猛(どうもう)なハンターに転じる遠藤は、パナマを驚かせていたであろう日本を、2年前の姿に一気に近づけた。マンオブザマッチは誰かと言われれば、文句なしに彼だろう。

 ただ、遠藤にこれぐらいの働きができることは、さしたる驚きではない。森保監督も彼に対する信頼があればこそ、前半は橋本を試すことができたのだろう。

 わたしが驚いた……というか、正直、度肝を抜かれたのは、鎌田のプレーだった。

 南野の先制点につながる遠藤の縦パスも見事だったが、この日の鎌田は、それに類する、いや、上回る精度のラストパスを5本も通した。相手GKの退場を生んだのも、彼からのパスだった。

 器用な選手であることは知っていたが、わたしの中での鎌田は、あくまでもストライカーだった。ところが、この日の彼ときたら……何というか、一人だけ別次元だった。人間界に降臨した魔王というか、ゲームにおけるチートキャラというか、異様なほどの風格と余裕を漂わせてプレーしていた。

 出場時間18分で5本のラストパス。それも極上のラストパス。これは普通ではない。天才的なパサーとしての名をほしいままにしている選手にとってさえ、簡単なことではない。

 かつて本田圭佑が言っていたように、得点はケチャップのようなもの。ドバーって出る時もあれば、さっぱりな時もある。だが、極上のラストパスを出す感覚に偶然や運不運はない。出せる選手はいつでも出せるし、出せない選手は永遠に出せない。

 そんなパスを、鎌田は連発した。遠藤よりも、柴崎よりも多く通した。

 もし、この日の鎌田が一生のうち何度かはある大当たりではなく、通常モードだというのであれば、日本代表は途方もなく大きく武器を得たことになる。

 久保?南野?申し訳ない、この日に限って彼らの存在は吹っ飛んだ。そんなことをやってこなかった選手が、唐突にやってのける。若年層ならいざ知らず、代表レベルでこんなことが起きるとは。こうなったら、ぜひメキシコ戦でも彼のプレーを見てみたい。(金子達仁氏=スポーツライター)

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