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【コラム】金子達仁

指導者にも、世界への道は開かれているはずだ

[ 2018年11月1日 13:10 ]

マンチェスター・シティー(イングランド)のグアルディオラ監督は、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)と母国スペインを離れて指揮を執り続けている
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 端(はな)から「自分には無理」と諦めている選手も皆無ではないだろう。けれども、Jリーグでプレーするようになった選手、あるいはこれからJリーガーになろうと夢見ている選手であれば、きっと、頭のどこかにある。

 いつかは、海外へ――。

 成功するか否かはあくまで個人による。夢破れ、志なかばでの帰国を余儀なくされる者もいる。だが、失敗の理由が「日本人であること」だった時代は確実に過去のものとなりつつある。代表監督時代のトルシエが海外でプレーする日本人の少なさを嘆いていたことを思えば、ずいぶんと遠いところまで日本サッカーもやってきた。

 ただ、まだ決定的に遅れている部分もある。

 いまや世界屈指の選手輸出国となったスペインも、ほんの十数年前までは国外でプレーする選手はほとんどいなかった。選手の側にその意志がなかったということもあるが、何より大きかったのは、スペイン人の選手を欲しがる国外のクラブがなかった、ということである。

 だが、バルセロナとレアルが欧州屈指のビッグクラブに成長し、そこに引っ張られるようにして代表も結果を残すようになると、状況は一変した。かつては英国人たちがジョークの対象としていたスペイン人のGKでさえ、次々と国境を越えるようになった。

 スペインほどではないにせよ、現在の日本人選手の置かれた環境も、それに近いものがある。欧州の多くのクラブが日本人選手を純粋な戦力として考えるようになり、またJリーガーの年俸の安さも、「お買い得感」を昂(こう)進(しん)させている。日本の人口と底辺の広さを考えれば、いずれは数百人の選手が海を渡る時代が来るかもしれない。

 問題はここからである。

 スペインの場合、選手が続々と国外でプレーするようになると、それに、ほんの少し遅れただけで、新たなムーブメントが巻き起こった。

 スペイン人の指導者にも、マーケットが興味を示すようになったのである。

 当然と言えば当然か。サッカーは選手がやるものだが、どんなサッカーをするかを考え、デザインしていくのは監督の仕事。優れた指導者の存在なくして、素晴らしいサッカーなどありえない。欧州でも屈指のスペクタクルなサッカーを展開していたスペインは、監督を探す側にとっても魅力的な国となった。

 するとどうなったか。かつてのスペインは欧州でも屈指の「英語が通じない国」だったが、国外でのチャンスもあることが認識されてくると、スペインの指導者たちは本気で英語に取り組み始めたのである。

 さて、我らが日本はどうか。日本人選手の評価はあがった。ニーズもある。何より、選手の側に夢がある。だが、いつかはバルサでプレーしたいと口にする選手はいても、いつかはバルサで指揮を執りたいと公言するコーチに、わたしは巡り合ったことがない。

 選手がそうであるように、指導者にもまた、世界への道は開かれているはずなのだが。(金子達仁氏=スポーツライター)

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