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「なつぞら」“天陽くんラスト”秘話 放り投げた麦わら帽子に込めた意味 吉沢亮が最期に「至福感湛えた」

[ 2019年9月3日 08:20 ]

連続テレビ小説「なつぞら」第134話。息を引き取る前、麦わら帽子を放り投げる天陽(吉沢亮)(C)NHK
Photo By 提供写真

 NHK連続テレビ小説「なつぞら」(月~土曜前8・00)の第134話が3日に放送され、俳優の吉沢亮(25)が好演した画家・山田天陽が36年の短い生涯に幕を閉じた。ヒロイン・奥原なつ(広瀬すず)が恋心を抱き、絵心を教えられるなど、なつの人生に多大な影響を与えた人気キャラクターの最期に、インターネット上は号泣の嵐。“天陽くんロス”が広がった。制作統括の磯智明チーフプロデューサー(CP)に、天陽の“ラストシーン”の舞台裏や吉沢の魅力を聞いた。

 節目の朝ドラ通算100作目。大河ドラマ「風林火山」や「64」「精霊の守り人」「フランケンシュタインの恋」、映画「39 刑法第三十九条」「風が強く吹いている」などで知られる脚本家の大森寿美男氏(52)が2003年後期「てるてる家族」以来となる朝ドラ2作目を手掛けるオリジナル作品。戦争で両親を亡くし、北海道・十勝の酪農家に引き取られた少女・奥原なつが、高校卒業後に上京してアニメーターとして瑞々しい感性を発揮していく姿を描く。

 なつが十勝にやってきたのは1946年(昭21)、戦争が終わった翌年の初夏、8歳の時だった。天陽とは、音問別(おといべつ)小学校で同じクラスになった幼なじみ。天陽が描く馬の絵に魅了された。離農寸前だった天陽の一家の荒れ地を、泰樹(草刈正雄)を中心に手助けして開墾した。

 なつが十勝農業高校に進み、天陽が農業に従事した後も2人の交流は続き、天陽の家で向かい合い、お互いの自画像を描くこともあった。2人は想い合っていたものの、天陽はなつの東京行きを後押し。卒業式が終わると、天陽は帰路のなつを呼び止め、雪原の上に寝転がる。

 「なっちゃん、オレは待たんよ。なっちゃんのこと、ここで。帰るのは待たない。なっちゃん、オレにとっての広い世界はベニヤ板だ。そこがオレのキャンバスだ。何もないキャンバスは広すぎて、そこに向かっていると、自分の無力ばかり感じる。けど、そこで生きている自分の価値は、他のどんな価値にも流されない。なっちゃんも、道に迷った時は、自分のキャンバスだけに向かえばいい。そしたら、どこにいたってオレとなっちゃんは、何もない、広いキャンバスの中でつながっていられる。頑張れ。頑張ってこい、なっちゃん」

 なつが東洋動画に入社し、上京から4年後の59年(昭34)。十勝に帰ったなつは4年ぶりに天陽と再会したが、その隣には懸命に働く妻・靖枝(大原櫻子)の姿があった。アニメーターの夢を叶えたなつは67年(昭42)、若手演出家・坂場一久(中川大志)と結婚。十勝で行った挙式・披露宴には、天陽も出席した。

 そして、73年(昭48)夏。体調を崩し、帯広の病院に再入院していた天陽は病室を抜け出し、咳込みながら自転車で帰宅した。愛する家族と再会した後、アトリエにこもり、描きかけだった馬の絵を徹夜で完成。その朝、靖枝に「(病院に)戻る前に畑を見てくる。来週、退院する頃にはイモ掘りだろ。様子を見てくる。もうじき、親父が搾乳に来る。それから、お袋と子どもたちをよろしく頼む」と言い残し、ジャガイモ畑に倒れ込んだ…。

 天陽というキャラクターについて、磯CPは「なつの人生のターニングポイントに必ず影響を与える人物というふうに、当初から脚本の大森さんと話をしていました。天陽の最期は、なつの大きな決心につながるシチュエーションにしたい。その大きな決心というのは、なつが本当にやりたいことは何なのか、見つめ直していくということです」と解説。なつが開拓者精神を学んだ泰樹とともに、天陽は人生の指針となった。

 天陽のモチーフとなったのは、十勝に生きた画家・神田日勝(1937~1970)。鹿追町には神田日勝記念美術館があり、命日の8月25日は「馬耕忌」と呼ばれ、例年イベントが行われている。今年は吉沢がトークショーを開いた。

 脚本の大森氏は「天陽くんはモチーフを一番意識したキャラクター。神田日勝の魂が今でも十勝に残っているというのが一番大事な部分なので、それは天陽くんでも同じように描きたかったんです。天陽くんはいなくなってしまいましたが、そこに残っている天陽くんの魂を感じながら残された人間が生きていくというのが正しい描き方なんじゃないかと思いました」。磯CPも「大森さんが山田天陽というキャラクターを造形した時から、彼の人生の最期は、神田日勝のように決まっていました。大森さんは神田日勝さんの生きざまが丸ごと好きなんだと思います」と補足した。

 天陽はなつと恋愛関係にはならなかった。磯CPは「東京から十勝に移住した天陽の一家は泰樹さんたちの手を借りて土地を耕し、そこに住み着いたという経緯がある以上、もう天陽は十勝から離れようがない人間だったということです。天陽がなつと一緒になるには、なつが十勝に残るしかなかったですが、アニメーターになりたいなつの背中を天陽が押した段階で、それはなくなりました。『天陽が上京し、なつに会いに行く』といったエピソードはどうですか?と、大森さんに何度か話したことはありましたが、大森さんの意思は固かった。確かに、牛を飼い始めると、牛を放ったらかしにして、どこかに行くということは難しい。それに、山田家はやはり天陽が中心に働かないと、生計が成り立たない。そういうことを差し置いて、天陽が簡単に東京に行き、なつに会うということは大森さんの中であり得ませんでした」と明かした。

 それほど重要な天陽役に吉沢を抜擢。磯CPは「ヒロインに関わる若手俳優のオーディションには約2500人の応募があって、約30人に絞り込み、その中から天陽役、雪次郎役(山田裕貴)、照男役(清原翔)と決めていきました。吉沢さんはもともとナイーブな芝居が魅力でしたが、天陽役は包容力や温かみも必要。その辺もオーディションで見させていただきましたが、彼なら、なつの“初恋”の相手であり、相談相手でもある天陽役をお任せできるんじゃないかと思いました」と改めて起用理由を説明した。

 “国宝級イケメン”と呼ばれるルックスに注目が集まりがちだが「決め手はあくまで芝居です。温かさやクールさもあり、若さの中に、奥行きや深みもある。天陽は重要な場面の登場が多いので、彼ならきちんと印象を残してもらえると思いました」と魅力を語った。

 この日放送された第134話の天陽のラストシーン。天陽はジャガイモ畑の土を触った後、かぶっていた麦わら帽子を地面に放り投げた。台本のト書き(セリフの間に書かれた俳優の動きや演出などの説明・指定文)にはなく、16年の大河ドラマ「真田丸」のチーフディレクターを務めるなどした「なつぞら」のチーフ演出・木村隆文氏のアイデアだった。

 磯CPは「天陽はやはり畑に種を蒔いて作物を育ててきた人間。最期も何かを撒いて事切れる。あたかも、天陽自身が土に帰っていくようなシーンになっています。土から離れられなかった人間が最期、土に帰っていく。その象徴が麦わら帽子。麦わら帽子を畑に投げ、自分の身も地面に放り出すような最期を描きたいということでした」と代弁。「畑に倒れ込むというアクションですが、力尽きて死ぬという悲壮感は出したくなかった。そういう木村監督の芝居付けに吉沢さんも見事に応えて、非常に優しい顔をしています。自分が耕し、育てた土に最期は帰るというところで、ある種、至福感を湛えた表情だったと思います」と吉沢の演技を絶賛した。

 儚くも美しい天陽の最期だった。

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