復興へのプレーボール~陸前高田市・高田高校野球部の1年~

野球部OB長男に背中押され 老舗畳店再生へ一歩

[ 2011年10月15日 06:00 ]

今月1日から畳店の営業を再開し笑顔で仕事に励む芳野真砂基さん

 真新しい仮店舗いっぱいに香ばしい、い草のにおいが広がる。明治元年創業の老舗畳店「芳野製畳店」。震災から約7カ月の1日にようやく営業再開にこぎつけた4代目主人の芳野真砂基さん(50)は黙々と仕事をこなしていた。

 「家も店も車も全部流されました。のれんもクギの1本から全部です。でもやっとここまで来ました。長かったですね」

 陸前高田市の中でも特に津波の被害が大きかった気仙地区に住んでいたため、全てを失った。5月上旬まで避難所暮らし。薪で暖を取る生活を強いられた。その後、竹駒町の仮設住宅に移ったが、仕事ひと筋で生きてきた職人にとって仕事のない生活は耐えられなかった。「仮設に1日いると、仕事を終えた人たちが次々に家に戻ってくるのが分かるんです。それがつらくてね。自分は家族も養えないのか、という焦りがありました」と振り返る。

 事業再開のための補助金の申請などもしたが、なかなか思うようには進まない。それでも高田高校野球部OBで消防士の長男・亮人さん(22)に背中を押されたこともあり一念発起。親類に頭を下げて土地を借り、なけなしの金をはたいて機械を買った。仮店舗設置のための交渉や、電線を引くための交渉も1人でやりきり、老舗畳店は復活した。

 「やっぱり仕事があるって素晴らしいことですね」と芳野さんは目を潤ませながら話す。現在は、昔なじみの客の注文がポツポツとある程度。だが数年後には、仮設住宅暮らしの人たちが自分の家を建てられるようになるかもしれない。そのときこそ芳野さんのような畳職人の出番だ。

続きを表示

バックナンバー

もっと見る