大谷翔平の月間MVP不選出に思う 二刀流に慣れてはいけない

[ 2022年7月8日 07:30 ]

6日のマーリンズ戦5回2死満塁、大谷は左前に勝ち越し2点適時打を放ち、ベンチに向かって吠える(撮影・篠原 岳夫)
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 心に刻み、しっかりと振り返りたい。エンゼルスの大谷翔平投手(28)が6月の月間MVPに選出されなかった。

 投手として4勝1敗、防御率1・52。打者として打率・298、6本塁打、17打点。打者部門ではアルバレス(アストロズ)、投手部門ではシース(ホワイトソックス)が選出された。ともに大谷より打者として、投手として優れた数字を残した。そのため、選出されなかったのは妥当だ、という意見は十分に理解できる。

 だが、思い出して欲しい。大谷の6月の投打でのパフォーマンスは規格外だった。21日に打者で自己最多8打点を記録し、翌22日は投手で自己最多13奪三振。打者として11試合連続安打、投手としては自己最長の21回2/3イニング連続無失点と抜群の安定感を発揮した。

 さらに記憶に残る試合は9日のレッドソックス戦。打っては5回に12号逆転2ランを放つなど2安打2打点、投げては7回4安打1失点で4勝目。登板試合の決勝アーチは自身初めてで、球団ワースト記録を更新中だったチームの連敗を14で止めた。

 「二刀流で優れた成績を残した選手を表彰する新たな賞を設立した方がいい」という声も耳にする。21、22日の週は週間MVPさえ逃している。このような歴史的な活躍を見せたにも関わらず何も表彰されないのは、疑問以外の何物でもないだろう。

 では、そもそも、月間MVPはどうやって選出されているのか。匿名を希望した米メディアの記者の1人は「球団広報が試合前に各球団の担当記者数名に用紙を配ってその日の試合の7回までに提出してほしいといったケースが多い。総合的な成績を元に考えるレギュラーシーズンのMVPや新人王などのように考える時間は少ない」と説明してくれた。用紙には打者なら打者成績のみ、投手なら投手成績のみが記載されているという。

 期限ぎりぎりで提出を求められ、考える時間も少ない。これでは、普段から大谷の試合をよく見ていない記者が投打それぞれの数字だけを比較する。大谷を選択しないのは当然なのかもしれない。さらに、投打を分けず総合力を競うレギュラーシーズンのMVPや新人王と違い、投手、打者と分けて表彰する月間MVPでは例え大谷を評価する記者がいても、投手部門、打者部門でそれぞれ票数が分散することも必至だ。

 救いはある。米紙デトロイト・フリープレスや、同ロサンゼルス・デーリーニューズなどで野球記者歴40年以上を誇るジョン・ロー氏は「大谷が月間MVPにふさわしい。議論の余地はない。彼は1人の傑出した選手ではなく、2人の傑出した選手だった」と絶賛。ロサンゼルス・タイムズ紙の人気コラムニスト、ディラン・ヘルナンデス記者も「もし投票権を持っていたら大谷に入れた」と語り、大リーグ公式サイトのエ軍番レット・ボリンジャー記者も自身の記事で「大谷の歴史的な6月」と大々的に報じていた。

 依然としてチームは厳しい状況に置かれるが今季は1918年のベーブ・ルース以来の「2桁勝利&2桁本塁打」達成の可能性が高く、このままの調子を維持すれば2年連続MVPだって見えてくるだろう。

 6月7日にチームの低迷の責任を負って解任されたジョー・マドン監督は、かねて「(大谷)翔平の二刀流を当然のことと思わないでほしい。慣れてはいけない。とんでもないことをやり続けている」と話していた。もちろん米メディアが大谷を評価していないわけではないが、今季は二刀流に対する“慣れ”を感じざるを得ない。

 だが、忘れてはいけない。来年も、再来年も大谷の二刀流を見られる保証はどこにもない。今回、月間MVPに選ばれなかったことで、その偉業を余すところなく伝え続けなければならない、と改めて感じた。(記者コラム・柳原 直之)

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