【内田雅也の追球】ノースリー強振の矜持 大山はもっと傲慢でわがままな打者であっていい

[ 2022年3月13日 08:00 ]

オープン戦   阪神3ー0中日 ( 2022年3月12日    甲子園 )

5回、大山は左翼線へ適時二塁打を放つ 
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 カウントコールが国際基準のボール―ストライク順になって久しいが、3ボール0ストライクだけは昔の「ノースリー」と呼びたくなる。

 そのノースリーから阪神・大山悠輔がついにとらえた。5回裏、2点を先制してなお2死一、三塁で、左翼線へ適時二塁打を放った。左腕・岡田俊哉の外角ツーシームか。強引に引っ張った。

 ついに、と書いたのはこの日の2回裏、前日の6回裏とノースリーから強振したが、ファウルで打ち損じていたからだ。

 打者絶対有利のノースリーは心の持ち方が難しい。何度か書いてきたが、大リーグ歴代2位の755本塁打の強打者、ハンク・アーロンが<ボールを強く叩きすぎたり(中略)悪球に手を出してしまったこともよくある>と『ホームラン・バイブル』(ベースボール・マガジン社)で打ち明けている。<だから私は3ボール2ストライクか3ボール1ストライクの時に打つ方が好きだ。(中略)ミートすることを一番心がけるからだ>。

 しかし、大山には強引さを戒めず、むしろ勧めたいと思っている。

 大山は誠実で勤勉な選手だ。凡打での疾走も力を抜かない。攻守交代で守備位置まで力走する。自己犠牲をいとわず献身的だ。8日広島戦では無死二塁で追い込まれると内角球を右に転がし二ゴロ進塁打にした。この日も2回裏、二塁走者で左飛で偽装スタートするなど走塁も手を抜かない。

 そんなまじめさがアダになる時がある、とみていた。もっと傲慢(ごうまん)でわがままな打者であっていい。昨年も一昨年も勝利打点セ・リーグ最多の強打者だ。4番はいま佐藤輝明だが、大山には4番の自負や矜持(きょうじ)を持っていい。

 監督・矢野燿大が今年1月に共著で出した『昨日の自分に負けない美学』(フォレスト出版)で近本光司との秘話を紹介している。いつとは書いていないが、調べてみると2020年6月20日の巨人戦(東京ドーム)だ。1点を追う3回表1死一、二塁、ノースリーで矢野は「打て」を出したが、近本は甘い球を見送り最後は三振した。「自分で決める試合でおもろいんちゃうか。チャンスメークやつなげるだけじゃなく、おまえが決める試合があっていい」

 近本は翌日、2ボールから初回先頭打者本塁打を放った。矢野は<ドラマは気持ちがつくる>と書いた。むろん大山にも望んでいる。 =敬称略= (編集委員)

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2022年3月13日のニュース