【内田雅也の追球】「ヤシの実もぎ」の効果

[ 2021年2月9日 08:00 ]

サブグラウンドで内野ノックを受けた(左から)近本、佐藤輝、井上
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 大リーグ・ドジャースにはかつて、キャンプで「ヤシの実もぎ」(coconut snatching)と呼ぶ練習があった。

 名づけ親はGMのブランチ・リッキーだった。マイナー組織を整備、黒人選手ジャッキー・ロビンソンの登用で「人種の壁」を破るなど、名フロントマンで知られた。

 ハワイなど南の島でヤシの実を採る作業がある。1人が木に上り、実をもいで地上に落とす。続けていると疲れてくるため、地上の仲間と交代する。「人は入れ替わるがヤシの実もぎは続く」というわけだ。1970年3月20日付のニューヨーク・タイムズにある。

 この人の入れ替えをドジャースは行った。三塁手が捕手、外野手が遊撃手・二塁手、一塁手が外野手……といった具合に、普段とは異なるポジションを守らせた。

 リッキーは「その人にとって、どのポジションが最も向いているのかは誰にも分からない」と、適性をみていた。実際にコンバートに至った成功例がいくつもあった。

 アル・カンパニスの『ドジャースの戦法』(ベースボール・マガジン社)にも書かれ<コーチの納得がゆくまで選手にポジションの変更を命ずるがいい>とある。

 沖縄・宜野座の阪神キャンプ。8日午後は野手陣を半分に分け、打撃はメイン球場、守備練習はサブグラウンドで行われた。この時、外野手は内野ノックを受けていた。外野守備走塁に加え、今年から分析担当の肩書もついたコーチ・筒井壮がゴロを打っていた。

 新人の佐藤輝明や近本光司、井上広大……らが内野手のようにゴロ捕球・送球を繰り返した。ただし、この練習で内野手としての適性をみていたわけではないだろう。

 昨年までも阪神はキャンプ中、内外野のポジションを入れ替えて守備練習を行っていた。内野守備走塁コーチの久慈照嘉はよく「相手の気持ちを知るため」と説明していた。中継プレーなどで、外野手は内野手の、内野手は外野手の気持ちを知ることで連携がより潤滑になる。そんな意図だ。

 野村克也が阪神監督に就いた99年のキャンプで新庄剛志に投手をやらせたのも「投手心理を知れば、打撃が向上する」という狙いがあった。

 課題の守備向上に「ポジションは固定すべき」との意見がある。ただ、キャンプだからできることもある。選手もコーチも新たな発見があるかもしれない。 =敬称略=
 (編集委員)

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2021年2月9日のニュース