早大10季ぶりV 野球部OB記者が抱いた思い

[ 2020年11月9日 09:30 ]

<慶大・早大>東京六大学野球2020秋季リーグ戦で優勝を果たし、マウンド上で喜び合う早川(左から3人目)ら早大ナイン(撮影・河野 光希)
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 信濃町の駅を出て、歩道橋を渡る。絵画館前を通り、神宮バッティングセンターの横を抜けると、ブラスバンドの音がかすかに聞こえ始めた。7日の正午すぎ。もう、応援合戦は始まっていた。目的地の神宮球場に着く前から、何となく気持ちが高ぶっている。

 両校の優勝がかかっていた早慶戦の初戦。すでにスタンドは上限1万2000人に近づき、2階席に陣取った。早大は左腕・早川、慶大は右腕・木沢の両エースの投げ合い。ともに楽天、ヤクルトのドラフト1位でもあり、注目度の高い対戦だった。4回まで0―0。その時点で出社のため、球場を後にした。会社に到着する頃には早大がリードし、早川が完投勝利を挙げ逆王手。翌8日は、9回2死走者なしからの逆転勝利で、早大が10季ぶりの優勝を果たした。小宮山監督の男泣きが印象的だった。

 早大野球部OBの記者にとっても、うれしい優勝だった。秋のリーグ戦が始まる前、小宮山監督からメッセージを受け取っていた。「伝説の早慶6連戦から60年。今年、当時の両校監督が殿堂入りした。早慶戦は紙面を割いて盛り上げるのが当然」。大先輩の指令は絶対だ。かといって、紙面の大きさを変えるほどの力はない(笑)。両校の選手の頑張りで、今回の早慶戦の価値は近年ないくらいに高まった。慶大ナインも素晴らしかったし、後輩たちが成し遂げた劇的な逆転優勝は、紙面を割くにふさわしかった。野球ファンの記憶にも残る熱戦だったと思う。

 2週間前、ドラフト前日の10月25日。会社の最寄り駅を降りて歩いていると、見慣れたトレーニングウエアの女性の姿を見つけた。黒と白が基調なのは、記者が学生時代の20数年前と同じ(もちろん、デザインはマイナーチェンジしていると思う)。早大応援部のチアリーダーだった。声をかけて身分を明かすと(そうしないと、単なる変なおっさんなので)、立大2回戦の帰り道、試合は引き分けだったとハキハキ答えてくれた。彼女は3年生で我が社のご近所さんとのことだった。

 コロナ禍で学生も授業はオンライン。大学に行くこともなく、楽しいはずのキャンパスライフもなくなった。東京六大学も応援はしばらく出来なかった。「4年生を見ていると、本当に苦しい気持ちになる。神宮で思い切り応援できないまま卒業していくなんて…」と彼女は視線を落とした。野球だけでなく、甲子園など、学生スポーツも軒並み大きな大会が中止を余儀なくされた1年。それぞれが完全燃焼できないまま、長い時間を過ごしていることを改めて痛感した。

 7日の神宮では早慶両校の応援部が、外野スタンドから必死に応援する姿を見ることができた。一般学生の姿はそこになかったが、グラウンドへ必死にエールを送る中に、きっと彼女もいたはずだ。リーグ戦を終えて早大・小宮山監督はこう言った。「連盟のすべての部員が感染しないように注意を払って(全日程終了に)こぎ着けられたことを誇りに思う。すべてのチームが勝者」。勝った者も、敗れた者も、グラウンド外で支えた人々の力を忘れてはならない、と感じた。(記者コラム・春川英樹)

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2020年11月9日のニュース