猛虎の“火の玉”継承へ 阪神・藤浪が2月に語っていた球児の教え 初キャッチボールでの会話とは

[ 2020年11月9日 05:30 ]

今年2月5日の宜野座キャンプで藤川とのキャッチボールを終えグータッチする藤浪(右)

 阪神・藤川球児投手(40)が現役最後の日を迎える10日の巨人戦まで「あと1日」になった。2月に明かしていたように藤浪晋太郎投手(26)にとっては指導や助言を仰ぐなど「憧れ」の存在だった。最強守護神から、次代のエースへ――。“火の玉”は継承される。

 突然の“ペアリング”に宜野座がざわついた。今春キャンプ序盤の2月5日。ブルペン入りに備えてキャッチボールを始めた藤浪の前にグラブを手にした藤川が現れた。ほどなく始まった白球での“会話”。希有(けう)なコンビ結成に周囲ではカメラのシャッター音が鳴り続けていた。

 「肩慣らしをしようかというところで球児さんが来てくれて。ボールを捕ってもらって、話をしてもらったのは初めてでしたね」

 97球の投球練習後にも身ぶり手ぶりで助言された。

 「全部技術論です。体を縦に使うとかラインをきれいに出してとか。そのへんをキャッチボールしながら見てくれてました」

 少年時代の記憶は鮮明に残る。

 「小さい時はジャイアンツファンだったので、阪神戦で球児さんが9回に出てきたら“はい、終わり”“点は入りません”というイメージで。実際、球児さんという人に触れると、コントロール、配球、フォークだったり、すごい部分は多くあるんですけど、子供の目にはとにかくストレートで押しまくって、すごいなって。純粋に憧れてました」

 阪神からドラフト1位指名された12年秋、藤川はメジャー挑戦へ動いた。2人の運命が交わったのは、藤川が復帰した16年からだ。

 「とにかく、いろんな話を聞いてみたいなと。球児さんが一緒のチームにいるってなった時は何か学べればという素直な気持ちでした」

 かけられる言葉にはいつも“小さな驚き”が潜んでいた。たとえば、登板後に痛打された場面について考察を聞いた時だ。

 「“あの打者は右足開いてるから逆方向に打ちたいんや。その意識が強いから右に強い打球が打てるんや”と。“ピッチャーは、あれ(足)を動かしていかないといけない”と。そんな考えがあるんだな、とびっくりしました」

 昨季0勝など近年に陥った不振の捉え方も違った。15年のシーズン終盤に右肩痛を発症していたことを踏まえ、言われた。

 「“誰も印象持ってないかもしれないけど、そういう痛めたのが後々来てる。あんまり自分の中で気にしない方がいい。戻ってくるまで数年かかるから”と。球児さんも肘を故障して、痛いとか怖いとか、状態が戻ってくるまで時間かかると。その時に自分は技術はおかしくないのに技術の部分を変えてしまったからいろいろおかしくなったな…とか。そんな話をしてくれました」

 球団最速を更新した162キロを持つ藤浪にとっても、“火の玉”は異次元に映る。

 「スピン量、回転の角度…。右投手が投げる時は回転軸が右斜め、時計の1時、2時の方向にずれるんですけど、球児さんは本当に12時に近い、絵に描いたようなバックスピン。あとはフォームの間。着地してからグッと粘って、打者は前に出される。ただでさえ差し込まれるのに、より差し込まれる。回転、スピン量のすごさは子供の時も分かってましたけど、間とか体の使い方でタイミング外すとかはプロに入って分かった部分ですね」

 あり得ないことを最高峰のマウンドで体現していた。「ストレート一本で押し切るのは、難しい。それぐらいの人です。自分にはまねできないし、なれないですから」。投手としての本能を刺激する「憧れ」だった。(遠藤 礼)

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