【内田雅也の追球】「最早」終了の啓示 子規の警告は生きていた

[ 2016年9月18日 09:00 ]

<神・D>9回2死一塁、ゴメス(手前左)が空振り三振に倒れ試合終了となる

セ・リーグ 阪神3―6DeNA

(9月17日 甲子園)
 野球を愛した正岡子規は数多くの野球用語を日本語に訳した。「打者」もそうで、ただし「ストライカー」と呼んだ。文字通り「打つ人」だ。その心得も記している。

 1896年(明治29)の随筆『松羅玉液(しょうらぎょくえき)』で野球を解説し、ストライクを<打者必ずこれを撃たざるべからず>。つまり好球必打を説いている。

 一方で<投者(ピッチャー)は(略)打者の眼を欺(あざむ)き悪球を打たしめんとするにあり>と、ボール球で誘う投球術に注意を促していた。

 今から120年前、まだ日本野球の草分けの時代である。東大野球部監督などを務めた神田順治が<子規はこの時点で早くも競技の中味(なかみ)を的確に把握していた>と『子規とベースボール』(ベースボール・マガジン社)で感嘆している。

 この日9月17日は子規の誕生日だ。1867年(慶応3)、今の松山市花園町で生まれた。

 教えは今に通じる。阪神打線は今季は初対戦のDeNA先発ギジェルモ・モスコーソに得点はマウロ・ゴメスの初回2ランだけ。4安打7三振で白星を献上した。目立ったのがボール球に手を出すシーンだった。

 我流だが、スコアブックをつける際、ボール球には投球印の横に「ボ」と記している。モスコーソに対した6回まで、結果球(各打席最後の球)でみれば、3四球と1犠打を除く打者のべ21人中、ボール球だったのは約半分の10人に上った。

 速球に球威があったためチェンジアップなど変化球も生きた。敗戦後、打撃コーチ・片岡篤史が漏らした「真っすぐが良かった」はそういう意味だろう。結果、高め速球と低め変化球を振らされた。子規が警告した「悪球の欺き」にあった。

 いずれ訪れると覚悟はできていたが、この敗戦でクライマックス・シリーズ(CS)進出の可能性はなくなった。今の日程でいけば、今月27日(ヤクルト戦=甲子園)で今季全日程を終える。

 阪神がこれほど早く全日程終了となる前例はない。戦局悪化で連盟が解散にいたる44年の8月27日は異例だ。東京五輪で試合消化を急いだ64年の9月30日があるが、同年はリーグ優勝し日本シリーズを五輪開幕の10月10日まで戦った。一番早いという意味で気象用語に「最早」(さいそう)がある。球団史上最早だ。

 試合がないのは寂しいが、来季へ最も早くスタートできると考えたい。恐らく野球の神様の啓示だろう。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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