【内田雅也の追球】阪神・大山にみる「4番の見逃し三振」首を上下に動かし、胸を張って打席を去る

[ 2023年10月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1-2広島 ( 2023年9月30日    マツダ )

<広・神> 2回無死、大山は見逃し三振に倒れる(投手・九里)(撮影・大森 寛明)
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 阪神ファンだったタレント、上岡龍太郎は掛布雅之について「ネクストバッターズサークルでの所作、打席に向かう背中が好きなんだ」と話していた。そして「打つ、打たないはどうでもいい」=矢島裕紀彦『打つ――掛布雅之の野球花伝書』(小学館文庫)=。

 歌舞伎の千両役者を見るような目である。上岡も野球を見るプロ、目の肥えた見巧者(みごうしゃ)だったわけだ。

 実はいまの大山悠輔にも「打つ、打たないはどうでもいい」と思わせる所作がある。見逃し方である。特に見逃し三振の時にあらわれる。

 この夜は2回表先頭、九里亜蓮の内角シュートを見逃して三振となった。最近は見逃し三振が目立つ。前夜も2個。最近6試合で5個を数える。

 その時の立ち居振る舞いがいい。判定への不満などかけらも見せない。首を左右ではなくやや上下に動かし、胸を張って打席を去る。あれが4番の見逃し三振である。

 もちろん消極的でも目の狂いでもなかろう。仕留める好球を待つ一方で悪球を辛抱する。前夜まで3試合連続本塁打していた打者に書くのも気がひけるが、古田敦也が打撃復調の方法を『うまくいかないときの心理術』(PHP新書)に<打ちたい気持ちを抑える>と書いていた。<打たなきゃいけないと思った時ほどフォアボールで出ようとする。打ちたい気持ちを我慢して時を待つ>。

 打席での我慢、もっと書けば余裕が相手投手には脅威となる。7回表1死二塁の同点機、9回表2死無走者でも際どい球を辛抱して四球を選び、淡々と一塁へ歩いた。

 出塁率・403でリーグ首位。リーグ最多の四球は98個まで伸びた。選球眼の指標「BB/K」(四球÷三振)はリーグ3位の0・84。一昨年0・42(22位)、昨年0・57(12位)を思えば、相当にランクを上げた。

 開幕から全試合4番を務める。阪神生え抜きで全試合4番となれば、1985年の掛布以来38年ぶりだ。<タイガースの四番は経験した人間でしかわからない>と、いまは広島監督の新井貴浩が著書『阪神の四番』(PHP新書)に書いていた。<打てなければ、ファンからもメディアからも徹底的にたたかれる。それがずっと続けば、どんなに強い人間だって平静ではいられない>。

 大山は耐えて立派な4番となった。今年5月に逝った上岡も認めているだろう。 =敬称略= (編集委員)

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