【内田雅也の追球】データ野球の先を行く、岡田監督の卓抜した野球脳と独特の勝負勘

[ 2022年11月5日 08:00 ]

阪神・岡田監督
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 かつて、岡田彰布はセイバーメトリクスを駆使していると言われた。うわさについて前回阪神監督(2004―08年)を辞任直後、08年11月に出した『頑固力』(角川SSC新書)で<正しく言えば、それは間違いである>と否定している。

 うわさの根拠として送りバントをあまり使わなかった点がある。チーム犠打数は04年リーグ5位、優勝した05年は4位だった。バントに否定的だった『マネー・ボール』の戦略だと思われた。

 米国の野球専門シンクタンク『ベースボール・プロスペクタス』のサイトで当時、9回を締めるクローザーよりも7回や8回の失点を防ぐ方が勝利に近づくとの記事を読んだ。藤川球児を7回や8回に起用するJFK継投策とそっくりだった。

 当時、幾度か尋ねてみたが「そんなん、知らんよ」と繰り返した。「マネー・ボールもセイバーなんとかもプロスペクタスも読んでいない。俺の考えが結果的に一緒だったんやろう」。先の書にも<終わってみれば、私の実践した野球が少し、セイバーメトリクスを使った野球に重なっていたのだろう>とある。

 確かにデータだけを頼りにしているわけではない。犠打数は08年に156個と04年の67個から2倍以上に増えていた。<戦力や状況を見極めながら柔軟に確率の高い戦術を選択した>のだった。

 卓抜した野球脳と独特の勝負勘を持つ岡田はいわゆるデータ野球の先をいっているかのようだ。

 その点で今回の秋季キャンプで投手陣に指示した「高め真っすぐを磨け」「アウトハイに投げろ」は何とも興味深い。野村克也が言い、定石と思われた「アウトローが原点」の逆をいく。

 「フライボール革命」でアッパースイングの打者が増えた現在、対抗策として高めフォーシームが有効とされる理論に見合っている。日本のプロ野球も本塁打に加え、三振数も増加傾向にある。今年セ・リーグ優勝のヤクルトはリーグ最多本塁打、最多三振だった。この打撃を封じるのは高めの強い速球なのだ。

 データやテクノロジーを駆使した近年の大リーグを分析した『アメリカン・ベースボール革命』(化学同人)が<『マネー・ボール』の索引には重要な10番目の項目「成長」が抜けている>と指摘している。今オフのFA補強を否定する岡田が目指す若手育成は「革命」以上の結果を導くかもしれない。=敬称略=(編集委員)

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2022年11月5日のニュース