【内田雅也の追球】活を入れた梅野「4秒06」の力走 “俊足捕手”の積極姿勢に気持ちがこもっていた

[ 2022年9月15日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-5広島 ( 2022年9月14日    甲子園 )

<神・広>5回無死満塁、糸原の左飛で同点の生還を果たす梅野。捕手会沢(撮影・北條 貴史)
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 阪神・梅野隆太郎は打って守って走って……のヒーローである。なかでも光ったのは5回裏、同点生還の力走である。

 1点を追う無死満塁。三塁走者として糸原健斗の左翼線浅めのライナー性飛球に素早く帰塁、敢然とスタートを切り、ヘッドスライディングでタッチをかいくぐった。

 手もとのストップウオッチで計ると塁間4秒06という速さだった。

 捕手で意外とみられるが、梅野はもともと俊足である。2018年には右打者の一塁到達タイムで12球団6位の最速4秒07を記録。プロ野球統計のデルタ社がインスタグラムで公開していた。トップは菊池涼介(広島)と外崎修汰(西武)の3秒97。植田海(阪神)4秒09、坂本勇人(巨人)4秒10を上回っていた。

 19年には自己最多14盗塁を記録。ただ盗塁数は20年5個、21年8個、今年は2個と減っていた。

 しかし俊足は衰えていなかった。右打者が振り切ってから走りだす一塁駆け抜けはタイムは落ちる。それでも4年前の4秒07を上回った。

 梅野はお立ち台で「無我夢中でした。ホームまで一直線。覚えていないくらいです」と話した。最高の集中状態「ゾーン」に入っていたのだ。

 そして、この疾走をたたえたいのは、そのスピード以上に姿勢である。走る姿に気持ちがこもっていた。「走姿顕心(そうしけんしん)」である。チームとして徹底する「全力疾走」と「超積極的」姿勢が反映されていた。果敢な走塁でチームに活を入れたわけだ。

 だから、再び1点を勝ち越された6回裏、佐藤輝明、小幡竜平が食らいついて連打した。この好機に梅野は右中間へ2点三塁打を放ち、逆転に導いた。ちなみに、この後、再び犠飛で生還した時の塁間タイムはさらに速く4秒03だった。

 守備面では8回まで毎回の計13本の長短打を浴びながら1点差で逃げ切った。1点差の9回表は岩崎優をリードし、3人とも直球で打ち取った。8月5日以来のセーブに導いた。8回表2死一、三塁では湯浅京己の外角低め速球ワンバウンドを逆シングルで好捕した。大車輪の働きだった。

 敗れれば優勝の可能性が完全に消滅、広島に並ばれる大事な一戦。梅野の力走が原点の心を呼び覚ましたわけである。=敬称略=
 (編集委員)

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