草刈民代 2人芝居を初企画 バレエも舞台も突き詰めてこそ世界が広がる

[ 2019年9月29日 10:00 ]

優しいまなざしと美しいスタイルでポーズを決める草刈民代(撮影・西海健太郎)
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 【カレイドスコープ】女優草刈民代(54)が初めて企画した舞台が来月初日を迎える。俳優高嶋政宏(53)と2人芝居の「プルガトリオ あなたと私のいる部屋」(東京芸術劇場シアターウエスト、10月4~14日)。チリの劇作家アリエル・ドーフマン氏の傑作の日本初上演で、日本語の脚本作りから始めた意欲作。「ハードルの高いことに挑むことは大事」とストイックに作品に向き合う姿を取材した。

 草刈といえば、国内外で活躍した元プリマ・バレリーナ。バレエがつくり上げた抜群のプロポーションは、記者も含めたアラフィフ、アラフォー女性の憧れの的だ。

 稽古終了後の静かなスタジオをのぞいてみると、ほっそりした首のライン、スッと伸びた背筋が美しい。その草刈がキリリとした表情で赤ペンを持っている。プロデューサーと出演者の2役で臨んだ今回の舞台。稽古以外の場面では、やっていることは完全に裏方。台本に赤ペンを走らせたり、電話連絡をしたり、動き回っている。

 「英語の台本を日本語にしているので、より良いものにするために毎日直しているんですよ」

 見せてくれたのは、A4用紙をファイルに入れた台本。プリントした文字に線を引き、分かりやすく文字を書き込み直したもの。作品は日本初上演のため、英語の脚本を基に日本語の台本を一から作る作業からスタートした。「これを毎日更新していて、去年から何十冊にもなりました。大変ですよ」と言うが、疲れた様子など全くうかがえない。

 舞台に登場するのは、簡素な白い部屋に草刈と高嶋が演じる女と男だけ。尋問なのか、カウンセリングなのか、一体何が行われているのか。巧みな構成のセリフで、見守る観客にとっては、人生や人間とは何かを自身に問い掛けたくなるような作品となる。草刈が企画したきっかけは、英国王立演劇アカデミーの校長を15年務めたニコラス・バーター氏のワークショップに約2年前に参加したこと。英演劇界の重鎮バーター氏の演劇に対する知識の深さや俳優の導き方の素晴らしさに感動し「一緒に作品を作りたい」と自身のひらめきで、バーター氏に演出を依頼し、熱意と実行力で実現させた。

 脚色は夫の周防正行監督(62)に依頼。「相談するといいよ、やると言ってくれた。詩的な表現はどう詩的になるのか。コミカルな部分はどういう感じとか、その土台を作ってくれた」とサポートに感謝している。周防監督とは映画「Shall we ダンス?」の監督とヒロインとして“共演”し電撃結婚。結婚22年の今もおしどりぶりは変わらない。2人は今でも“共演”が多く、草刈が周防監督以外の作品に出演する時には、監督が何度も舞台あいさつなどに足を運ぶほか、草刈がプロデュースしたダンスの公演では監督が外国人の出演者を引率するなど、愛妻に常に寄り添う。そんな強力夫婦タッグが今回の妻の挑戦を支えている。

 稽古場では本番まで、演出の求めに応じて草刈と高嶋が一つ一つのセリフ、動きを突き詰める日々が続く。「バレエは決まりがあって窮屈だというけれど、決まりを全部把握した後で、やっとその上のステップへ行ける。これはバレエも舞台も一緒。一つの作品を突き詰めていかないと自由になれない。そこから表現の幅が広がるんです」。バレエでトップを極めて得た境地も、女優の努力の大きな助力となっている。

 「この年齢でここまでやるのはなかなかないと思うし、ここまで一つの作品を突き詰める経験をすれば次の糧になる。ハードルの高いものをやってよかった」。視線の先に充実した気持ちで迎えるカーテンコールが浮かんでいるようだった。

 ▼「プルガトリオ あなたと私のいる部屋」 戯曲「死と乙女」「谷間の女たち」などで世界的に知られるアリエル・ドーフマン氏の2人芝居の傑作。05年に米シアトルで初演され、09年には映画「ロード・オブ・ザ・リング」でスターとなった俳優ヴィゴ・モーテンセン(60)が挑戦したことでも話題となった。

 ◆草刈 民代(くさかり・たみよ)1965年(昭40)5月10日生まれ、東京都出身の54歳。8歳からバレエを始め、22歳の1987年に全国舞踏コンクール第一部1位、文部大臣奨励賞など数々の賞を受賞。96年、周防監督の映画「Shall we ダンス?」に主演し女優デビュー。同作で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。翌97年に周防監督と結婚。43歳の09年4月、バレリーナを引退。10年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」でドラマ初出演。1メートル68。

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