菫プロ最年少1勝、公式戦2戦目 57歳差対決逆転に笑み

[ 2019年7月9日 05:30 ]

囲碁の第23期ドコモ杯女流棋聖戦予選Bで史上最年少の10歳4カ月で公式戦初勝利を挙げ、笑顔の仲邑菫初段
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 囲碁の最年少プロ、仲邑菫(なかむら・すみれ)初段(10)が8日、大阪市の日本棋院関西総本部で打たれた第23期ドコモ杯女流棋聖戦の予選Bで、田中智恵子四段(67)を破り、史上最年少の10歳4カ月で公式戦初勝利を挙げた。これまでの記録は2010年、藤沢里菜女流本因坊(20)の11歳8カ月。終局後には「勝ててうれしい」と笑みを浮かべ、次の対局を見据えた。

 終局後の会見。仲邑初段はいつもと同じように、はにかむばかり。公式戦初勝利に「勝ててうれしい」と声を絞り出した。史上最年少勝利記録についての感想を求められると、立会人を務めた石井邦生九段(77)から促されて「うれしい」。あとはうなずいて、会場の端で見守る両親に目をやった。

 年齢57歳差の対局。持ち時間各1時間の早碁戦で打たれた。仲邑初段は、白のパーカに紺色のスカートという小学生らしい服装。序盤から攻めたが、1975年入段の経験豊富なベテラン・田中四段にことごとくかわされた。だが、中盤の争いで田中四段にミスが出て逆転に成功。そのまま押し切り、146手で勝利をつかんだ。

 対局中は序盤から1手ごとに大きく盤上へ身を乗り出したり、体を揺らす場面も。田中四段の表情を時折うかがい、真剣なまなざしで淡々と打っていたが、終局後は一転ホッとした表情を見せた。

 田中四段が「強い。子供だからカーッとなると思ったけど、大人みたいで不思議な感じ」と評した仲邑初段。日本棋院が世界戦での巻き返しを目指して新設した「英才棋士」の第1号で、4月に史上最年少の10歳0カ月でプロ入りした。同月に打たれた公式戦デビュー戦の竜星戦予選でプロ同期の大森らん初段(16)に敗れ、今回が2戦目だった。

 この2カ月の間、囲碁の本場・韓国へ渡って、修業を積み直した。日課の早朝棋譜並べも欠かさなかった。石井九段は「今年の初めに打った時は勝たせてもらったが、今は私より菫ちゃんの方が強そう。伸びしろが凄いね」と成長を認めた。「井山の10歳の時よりも菫ちゃんの方が強い」と自らの弟子である井山裕太4冠(30)を引き合いに、仲邑初段に太鼓判を押した。

 一方、囲碁ナショナルチームで仲邑初段ら育成選手のコーチを務める平田智也七段は、「勝ち切れない」ことを課題として指摘した。優勢に進めていた碁で逆転される場面がみられたという。公式戦で勝ちを積み重ねることで課題克服につながると平田七段は語る。

 次は8月5日に名古屋の日本棋院中部総本部で金賢貞四段(40)と対戦。これに勝てば史上最年少での本戦出場となる。勝てば全て「史上最年少」のタイトルがついてくる仲邑初段。大きな目標である「世界一」への第一歩を今、踏み出した。

 ▼囲碁の女性プロ 囲碁は日本棋院、関西棋院の2団体があり、独自にプロ棋士を採用。各棋院の養成機関に所属する「院生」になり、成績優秀者がプロになる。女性の特別採用枠もある。現在女性プロは日本棋院に71人、関西棋院に23人が所属。通常のタイトル戦に加えて女性だけの女流棋戦にも出場し、5つある国内女流棋戦の優勝賞金は350万円から800万円。ドコモ杯女流棋聖戦の優勝賞金は500万円。昨年の年間賞金女性トップは藤沢里菜女流本因坊の2189万円で、全体6位につけている。

 【仲邑 菫(なかむら・すみれ)】

 ★生まれ 2009年(平21)3月2日生まれ、大阪市出身の10歳。大阪市立小学校に通う5年生。
 ★囲碁一家 父の仲邑信也九段は師匠、母の美幸さんは元囲碁インストラクター。叔母も関西棋院所属プロの辰己茜三段。3歳で囲碁を始め、3歳7カ月で大会初出場。
 ★尊敬する棋士 井山裕太4冠、謝依旻(シェイ・イミン)六段、藤沢里菜女流3冠。
 ★本場で修業 7歳からたびたび韓国に渡り、韓国棋院で勉強。韓国語は得意。
 ★好きな食べ物 焼き肉、キムチチゲ。
 ★引っ張りだこ 地元大阪市で一日署長を務めて、府警ポスターに登場。令和初日の5月1日に巨人―中日戦(東京ドーム)で始球式を務める。

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