ここは天国かい?

[ 2016年9月29日 07:55 ]

 【我満晴朗のこう見えても新人類】カナダ人作家のウィリアム・パトリック・キンセラ氏が81年の生涯を閉じたという9月18日の訃報を聞き、本棚の奥の、さらに奥の方に隠れていた「シューレス・ジョー」(永井淳訳=文芸春秋)を久々に読んでみた。

 ご存じの通り、米映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年)の原作。ケビン・コスナーが主演したこの映画は野球を通して家族愛、親子の絆を描いたヒット作だ。最後のキャッチボール場面で泣いた野球好きは多いだろう。

 原作のラストは少々違う。どちらかといえば作家のJ・D・サリンジャーが軸になっている。最後はそのサリンジャー自身が幽霊と化したシューレス・ジョー・ジャクソン(文中表記はジャクスン)ら元大リーガーとともに「あちら側」に去ってしまう――といったストーリーだった。

 作中でサリンジャーは大の野球ファンとして描かれている。終盤には野球について熱く語る場面が延々と続く。代表作「ライ麦畑でつかまえて」の英語表記は「The Catcher in the Rye」。でもこのキャッチャーは捕手ではなく、文字通り「つかまえる人」の意味なので、野球とはあまりリンクしない……などとつまらぬウンチクが気にならないほどの読後感を味わった。

 1985年1月発行のハードカバー本は、まるでジョージ・ウィンストン(ピアニスト)のアルバムのように透明感あふれる装丁で、帯には村上春樹氏による「年をとりつづける少年たちのために書かれた現代の童話」というコメントが掲載されている。定価を見たら1800円。消費税のない時代だが、なにしろ31年前の1800円だ。われながらよく買えたものだと苦笑いしてしまった。

 キンセラ氏の著作はその後もいくつか読んだ。「アイオワ野球連盟」は「シューレス・ジョー」の姉妹編ともいえる情緒あふれる快作で、「野球引込線」という短編集も心に染みいった。天然芝球場への回帰をテーマにした小品が特に印象深い。この作品が世に出た1990年代初頭は、メジャーの各球場が人工芝から天然芝への張り替えを進めていた時期。キンセラ氏の思いが各球団を動かしたのでは、と勝手に信じている。

 日本も一時の人工芝ブームが一段落して、自然芝への機運が増してきたように思う。代表的なのがマツダスタジアム。「それを作れば、彼が来る」。日本では珍しい内野を含めた自然芝球場を作ったら黒田も新井も(幽霊としてではなく)帰ってきたし、優勝までも実現してしまった。

 トウモロコシ畑の「あちら側」にいるキンセラ氏も喜んでいるに違いない。(専門委員)

 ◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京都生まれ。ジョン・ボンジョビと同い年。64年東京五輪は全く記憶にない。スポニチでは運動部などで夏冬の五輪競技を中心に広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。たまに将棋の王将戦にも出没し「何の専門ですか?」と尋ねられて答えに窮する。愛車はジオス・コンパクトプロとピナレロ・クアトロ。

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