【内田雅也の追球】打たれた責任は捕手か 正解がわからないリード、配球 ならば前を向くしかない

[ 2023年5月1日 05:15 ]

セ・リーグ   阪神2ー4ヤクルト ( 2023年4月30日    神宮 )

<ヤ・神>6回、長岡の打球をフェンスぎりぎりで捕球し、捕邪飛にする梅野(撮影・岸 良祐)
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 捕手のリード、配球は難しい。野球記者39年目になるが、いまだに正解にたどりつけない。いや正解があるのかさえ、わからないでいる。

 阪神は梅野隆太郎が4試合ぶりに先発に復帰して連勝が止まった。今季先発7試合全勝だった坂本誠志郎をベンチに置いた。監督・岡田彰布が前夜「明日は梅野に奮起させよ。長いシーズンやから」と話していた。正捕手に指名していた梅野の復調なくして「アレ」はないと踏んでいるのだ。

 その梅野がリードして失点を重ねた。3回裏1死二、三塁から村上宗隆に左犠飛をあげられた。チームとして実に31イニングぶりの失点だった。さらに続くドミンゴ・サンタナに左翼席へ強烈な2ランを浴びた。

 いずれも才木浩人自慢の速球だった。村上には1ボール―0ストライクから外角低めに、サンタナには1―1から内角低めに構えていた。投球はコースはともかく高かった。悪かったのは要求した捕手か、制球が乱れた投手か。わからない。

 5回裏には及川雅貴が村上に左前適時打を浴びた。開幕から無安打に封じていた村上に6試合24打席目で浴びた初安打だった。フルカウントから外角低め要求の速球が高かった。これも配球か、制球か。わからない。

 捕手のリードについて野球史家クレイグ・R・ライトが『ベースボール革命――21世紀への野球理論』(ベースボール・マガジン社)で<最高の捕手たちは常々次のようなことを言っている>と記している。「もし、投手の長所が打者の弱点を攻めることができるなら、そうする。だが私は、弱点と弱点を測るのではなく、長所と長所の闘いを信じている」

 力対力の大リーグ流である。真っ向勝負で敗れたのなら仕方がないというわけだ。日本では責任を捕手に求める風潮が強い。捕手はつらいが、献身的で内省的だ。梅野も自分を責めていよう。
 サトウハチローの「少年詩」に『すてきなキャッチャー君』がある。1951年発行の雑誌『野球少年』(芳文社)に掲載された。試合に敗れた帰り道、しょんぼりする選手たちを捕手の少年が元気づける。<あいつはいいなと先生が すてきなやつだとキャプテンが 月も聞いてた うなずいた>。少年野球と一緒にするなと叱られそうだが、プロ野球も夜空の月を眺め、前を向くしかないのである。 =敬称略=(編集委員)

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2023年5月1日のニュース