「自分で選手を集めれば甲子園に行ける」“地元軍団”氷見、選抜出場への道 一人の決断が歴史を変えた

[ 2023年5月1日 07:45 ]

開会式で、堂々と入場行進する氷見の選手たち
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 第95回選抜高校野球大会に出場した氷見(富山)は、17人中16人が氷見市出身という選手構成で聖地に立った。21世紀枠としての出場ながら、昨秋の県大会で優勝した実力校でもある。なぜ、地元軍団が1993年春以来30年ぶりに甲子園出場をかなえられたのか――。それは前主将の存在抜きでは語れない。

 氷見市出身で昨年の主将を務めた河原新之助は、高校進学前に県外の強豪校から勧誘を受ける有力選手だった。進路の参考に強豪校の練習を見学する中で確信した。「自分で選手を集めれば、氷見でもこれぐらいできる」。河原が氷見への進学を決断すると、その噂を聞きつけた同学年の選手も氷見を選んだ。

 「自分で選手を集める」というのは、後輩のことを指していた。「大沢と青野を誘えば、甲子園に行ける」。「大沢と青野」は1学年下の後輩で、のちに今春選抜でバッテリーを組むことになる2人のことだ。河原と大沢は中学時代の同僚で、高校も一緒にやろうと誘っていた。一方、県内No・1中学生と評されていた青野とは、面識すらなかった。河原は友人を介して電話をし、「一緒に甲子園を目指そう」と何度も誘った。青野は、強豪校から勧誘を受けていたものの、河原の言葉を信じて氷見に進んだ。

 河原は「俺らの代で甲子園行くんやぞ」と選手に伝え続けた。全体練習後に個人練習を続けていると、他の選手も居残るようになった。全員が本気で甲子園を目指し始めたのだ。

 そして迎えた3年夏の県大会。2年生エースの青野を中心に決勝まで進んだ。高岡商との決勝戦は1点優勢で9回の守備を迎えた。2死一塁、2ストライク――。聖地まであと1球だった。しかし、そこから逆転を許し、目前で夢は途絶えた。

 試合後、河原は大沢と青野に声をかけた。「甲子園に連れて行けなくて申し訳ない。春、甲子園に行ってくれ」。その約束をかなえようと新チームは秋の県大会で優勝し、21世紀枠選出につなげた。

 最速143キロ右腕として選抜注目選手にまで成長した青野は、「このチームには一つ上の先輩が残してくれたものがある。それが強みです」と感謝する。村井実監督は断言する。「選抜に行けたのは河原がいたからです。それに尽きるでしょう」。たった一人の中学生が地元に残ったことが全ての始まりだった。聖地には立てなかったとしても、歴史を変えた選手とした称えられるべき卒業生がいる。(記者コラム・河合 洋介)

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