映画のような追跡劇だった「白河の関越えを追え!」 取材班が辿り着いた「午後2時17分54秒」

[ 2022年9月5日 12:48 ]

仙台育英の選手たちを一目見ようと仙台駅にたくさんの人が集まった
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 第104回全国高校野球選手権大会で優勝し、東北勢として春夏通じて初の全国制覇を果たした仙台育英(宮城)が8月23日、大会期間中に宿泊していた大阪から校舎のある仙台に凱旋した。スポニチ高校野球取材班は深紅の大優勝旗の「白河の関越え」の瞬間を追跡した。

 好きな映画がある。アレック・ボールドウィン主演で90年に公開された洋画「レッド・オクトーバーを追え!」。冷戦時代、ソ連の新型潜水艦「レッド・オクトーバー」がソ連の領海内で突如姿を消し、ソ連と米国の双方がその行方を追うという物語。仙台育英の優勝を甲子園で見届けた8月22日の夜9時すぎ、上司から電話で受けた「あすは宮城に帰る仙台育英を追え!」の指令で、その名作を思い出した。東北勢初優勝で、ついに深紅の大優勝旗が白河の関跡(福島県白河市)を越える。まさに歴史的瞬間だが、そもそも帰路の交通手段さえ知らなかった。

 優勝したことでチームの担当者には連絡が殺到。指令を受けてすぐにかけた電話はつながらず、交通手段を特定することができない。だが、チーム周辺から「新幹線」の可能性が高いという情報をキャッチ。時刻は翌朝の23日午前9時1分京都駅発というものだった。

 優勝から一夜明けた23日午前8時55分。早起きして張り込んだ京都駅の新幹線ホームに期待した仙台育英ナインの姿はない。「新大阪から乗り込んだかもしれない」と、定刻通りに京都駅を出発した「のぞみ94号」に飛び乗った。車内を探すも選手の姿やはりない。まるで「レッド・オクトーバー」のように追跡不能になった選手たち。密着企画は破綻寸前だった。

 猛スピードで東京駅に向かう車内で新たな情報源にすがった。最後の切り札にしていた選手の保護者に連絡すると「選手たちは午前10時30分に新大阪駅発で午後0時57分に東京駅着で仙台行きに乗り換える」と新情報。記者は東京駅で下車し、東北新幹線に乗り換えるであろう選手たちを待った。

 待望の瞬間は午後1時すぎに訪れた。同行したカメラマンと張り込んでいた東京駅の東北新幹線乗り換え口に「ターゲット」が登場。輝く優勝盾を持った学生服姿の佐藤悠斗主将(3年)を先頭に30人の選手が続いた。列の最後尾には前日の閉会式で「青春って凄く密」と感動的なインタビューをした須江航監督。大会期間中は感染予防のためオンラインでしか取材できなかったため、生で見る選手、監督は優勝盾よりも輝いて見えた。新幹線ホームに鳴り響いた仙台行きを知らせるベルで新幹線の「こまち25号」に選手と共に乗車。やっとの思いで「獲物」を捉え「これで企画が成立する…」と胸をなで下ろした。

 深紅の大優勝旗が「白河の関越え」した時刻は2022年8月23日午後2時17分54秒。新幹線がトンネルを抜けたタイミングで福島県白河市にある「白河関跡」の西側を北上して通過。14号車に乗車した選手たちはスマートフォンの位置情報で確認し、佐藤主将らは優勝旗を広げて記念撮影。記者は車両前方の通路から「歴史的瞬間」を目に焼き付けた。

 ナインが仙台駅に到着すると、まるでビートルズが来日したかのような光景が広がった。祝福しようと、1000人以上の市民らが駆けつけ、駅構内で花道をつくって出迎えた。「甲子園優勝、誠におめでとうございます」のアナウンス。人々から送られた拍手と「おめでとう!」「ありがとう!」の声にかき消された。

 半日がかりの密着劇は映画のようにハッピーエンドで終えた。作中でいう「レッド・オクトーバー」を東京駅で見つけた瞬間は、まるで映画の登場人物になったように興奮した。翌朝の紙面に刻まれた歴史的瞬間。企画成立に力を貸してくださった選手の保護者には必ず恩を返したい。(柳内 遼平)

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2022年9月5日のニュース