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【内田雅也の追球】涙と感謝の不思議な力 才木の復活劇へチームは一丸となった

[ 2022年7月4日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-0中日 ( 2022年7月3日    バンテリンD )

16年10月、阪神からの3位指名に号泣する才木

 涙には不思議な力がある。<涙の数だけ強くなれるよ>という歌もある。右肘手術を越えた阪神・才木浩人の3年ぶり勝利は涙の味がした。

 ドラフト当日に取材した才木には思い入れもある。2016年10月20日、神戸市立須磨翔風高で阪神3位指名に驚き、喜び、そして号泣した。チームメートの祝福に「こんなに喜んでくれて」と涙がこぼれた。あれほど泣ける選手には成功してほしいと願ったものだ。

 プロ3年で8勝をあげたが、右肘痛から手術を受け、長いリハビリの日々を過ごした。

 プロ野球ファンだった作家・林芙美子が「泣いたことのない人間はいやらしいし、こわいし、つまらない」とNHK映像ファイル『あの人に会いたい』で語っている。「やっぱり人間は落魄(らくはく)の味をなめて泣くだけ泣かなきゃ、いい人間になれませんよ」

 才木は落ちぶれたわけではないが、投げられないというどん底を味わった。林の言うように人間的にも成長していた。

 試合後のヒーローインタビューでも涙がこぼれた。トレーナーら「お世話になった人たちのために」と投げたそうだ。感謝を力に換えたのだ。

 下柳剛は<試合後、まずすべての人に対して感謝することを心掛けた>と『ボディ・ブレイン』(水王舎)に書いた。<想像してみてほしい。自分は周囲の人に助けられている。一人じゃない――きっと気持ちが少し楽になったはずだ>。だから才木もマウンドで孤独ではなかった。

 進学塾人気講師だった木下晴弘の『涙の数だけ大きくなれる』(フォレスト出版)に<逃げればピンチ。挑めばチャンス>とある。<挑むことによって磁場が変わり、力を引き寄せる>。才木も立ち上がりから速球中心に真っ向勝負を挑み、5回裏のピンチでも逃げずに5回無失点で終えた。

 救援陣は試合前「後はまかせろ」と約束した通り、6回以降を無失点で抑えきった。ホームラン談話で大山悠輔は「才木のために早く先制したかった」、中野拓夢は「才木のために打ちました」と話していた。梅野隆太郎も打席で11球、8球と食い下がり、今季盗塁死のなかった岡林勇希の二盗を刺した。復活劇を飾ろうと一丸となった。才木もチームも原点を思い返した。=敬称略=(編集委員)

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