【内田雅也の追球】佐藤輝の強烈な本塁打と痛恨の三振 4番に望まれるのは…先人たちの言葉と考える

[ 2022年5月30日 08:00 ]

交流戦   阪神2-3ロッテ ( 2022年5月29日    ZOZOマリン )

<ロ・神> 1回無死満塁、佐藤輝は空振り三振に倒れる(投手・ロメロ)(撮影・大森 寛明)
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 山際淳司の命日だった。1995年、46歳で急逝して27年になる。80年の雑誌『ナンバー』(文藝春秋)創刊号に載った『江夏の21球』で一躍脚光を浴びた。

 79年日本シリーズ最終第7戦(大阪球場)。1点リードの9回裏、広島・江夏豊が投げた21球を描いた。近鉄としては無死満塁から代打・佐々木恭介空振り三振、石渡茂スクイズ空振り(三塁走者憤死)、石渡空振り三振で日本一を逃した。

 近鉄監督から本紙評論家となった西本幸雄は、一般論として「無死満塁では最初の打者が肝心」と話していた。「1人目で走者を還せば、大量点が望める。しかし1人目が凡退すると2人目以降は重圧がかかる」

 この日の阪神は1回表無死満塁を逃したのが響いた。佐藤輝明がフルカウントから胸元速球を空振り三振。原口文仁は焦ったか初球を捕邪飛、糸原健斗も中飛。不安定だったロッテ先発の左腕エンニー・ロメロを生き返らせてしまった。

 西本の論からすれば、佐藤輝の三振が痛い。相手二遊間は二塁併殺の守備隊形で前に転がれば、1点は拾えていた。

 ここが問題である。元より三振が多いと承知で4番に置くスインガーに当てにいけと望むのか。

 その軽打を望めば、今カード初戦、追い込まれてから益田直也のシンカーを打った決勝弾はない。この日8回表、同じ胸元速球を右中間に2ランした強烈な本塁打もない。

 通算714本塁打の「球聖」ベーブ・ルースは通算打率3割6分7厘の「安打製造機」タイ・カッブに向けて言った有名な話がある。「あんたみたいにコツコツ当てていれば打率6割は打てそうだ。だが、おれの給料はホームランを打つことで払われているんでね」

 同時代の1920―30年代のアメリカを描いた映画『アンタッチャブル』で、ギャングのボス、アル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)が幹部との食事会を前に語る。「確かに、ベーブ・ルースやタイ・カッブのようなすごい打者もいる。でもチームが勝たなければ何の意味もないんだ」

 強振や軽打を臨機応変に――というジレンマはあろう。だが、この敗戦は佐藤輝が強烈な本塁打を放ち、痛恨の三振を喫した試合として記憶しておきたい。 =敬称略= (編集委員)

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2022年5月30日のニュース