赤ヘル戦士第2の人生(2) 元広島・小松剛さんが取り組むキャリア形成サポート「価値に気付いてほしい」

[ 2022年5月30日 12:31 ]

昨年まで広島の2軍マネジャーを務め、今年から人材サービス「パーソルキャリア」で働く小松剛さん(提供写真)
Photo By 提供写真

 かつての赤ヘル戦士が、力強く第2の人生を踏み出した。08年ドラフト3位で広島に入団。5年間の現役生活を経て、同球団で広報、マネージャーを務めた小松剛さん(35)が今年1月、人材サービス「パーソルキャリア」に就職した。営業マンとして多忙な日々を過ごす中、5月から高校のコーチとして初指導も経験。スポーツを通じての社会貢献を目指す小松さんの奮闘に迫る。

 2軍では広報業務はもちろん、チーム運営にも携わった。「若い選手の生活指導的なこともさせてもらっていました。そんな中、昨日までユニホームを来ていた子が今日はスーツを着ていたり…。野球を必死にやっていた子が、次の日には“これから、どうしよう”と言っているんですよ。プロだから当たり前と言えばそうですが、何かモヤっとする秋でしたね」。もちろん、仕事自体はそれまでと変わらず、やりがいがあった。その中で、何とも説明しようのない、割り切れない思いは残った。志半ばでチームを去っていく若い選手の姿が、奇声を発しながら名古屋の街をダッシュしていた自分に重なるように思えてきた。

 「自分と同じ思いをする子が一人でも減ったらいいなと。“野球しかやってきてないから…”ではなく、野球をここまで続けてきたことに価値があるんだと。何とかそういう子たちをサポートしたい。自分の価値に気付いてほしいし、スポーツを通して得たモノは一般社会でも価値があるんだと」

 未来ある若者に悔いを残したまま、第2の人生に踏み出してほしくない。野球を続けてきたことにより得られたものの、本当の価値に気付いてほしい。覚悟は決まった。熱い思いを胸に、自らがスーツを着る道を選んだ。

 今年1月、人材サービス「パーソルキャリア」への転職を決めた。会社員として経験を積むことと同時に、高校生の指導も開始。学生野球資格を回復。室戸高時代の恩師・横川恒雄さんに相談し、梼原高を紹介された。横川さんは伊野商のコーチとして85年選抜大会優勝を経験。室戸の監督としても07年選抜大会で8強に進出している。当面は月1回程度の指導を予定する。

 指導者として伝えたいことはたくさんある。「一つはいろんな指導者の方に教わってきたこと、自分が学んできたことをアウトプットする」こと。そしてもう一つは、転職する際に強く心に誓ったことである。

 「ただ野球をやっている…ではなくて、一生懸命やっていること、やらせてもらっていること、これにはすごい価値があるんだと。だから今は野球を全力でやろう。そして同時に、一生懸命に考えることも伝えたい。人生を豊かにするために、どういうキャリアを積んでいくか。必死に考えることが尊いと思うんです。アスリートが輝く社会を作りたい思いがあります」

 日本野球機構(NPB)は5月27日に若手選手を対象とした「セカンドキャリアに関するアンケート」の結果を発表した。昨秋フェニックス・リーグに参加した12球団所属選手の186人、在籍平均年数3年、平均年齢22・7歳の若手選手が回答。引退後の生活に不安を感じていると回答したのは、123人で全体の66・1%。そのうち82・9%の選手が「進路(引退後、何をやっていけばいいか)」を不安の要素とした。

 若手選手を取り巻く厳しい現状はある。しかし小松さんは野球選手の、アスリートの無限の可能性を信じている。伝えるだけではない。自らも「キャリアコンサルタント」の国家資格取得を目指し、勉強を始めた。高校球児たち、全てのアスリート、そして自分自身が輝くために、何足もの草鞋(わらじ)を履く覚悟は固めた。

続きを表示

この記事のフォト

2022年5月30日のニュース