【内田雅也の追球】誠実で真摯な「基本」

[ 2021年2月18日 08:00 ]

<阪神春季キャンプ>川相昌弘臨時コーチ(右)からグラブの使い方を指導される佐藤輝(撮影・北條 貴史)
Photo By スポニチ

 川相昌弘が巨人から中日に移籍した2004年2月のキャンプ中、沖縄・恩納村の居酒屋で出くわした。1人で食事していた。あいさつし、少しだけ話した。

 移籍は移籍だが、一度表明した現役引退を撤回しての再挑戦だった。詳しい事情は知らない。笑いながら「毎日必死ですよ」と話していた。必死だったのだろう。短い時間だが、誠実で真摯(しんし)な人柄を知った。

 その性格は今もにじみ出ている。阪神臨時コーチとして連日、早出、居残りの練習に付き合う。むろん指導はするのだが、決して出しゃばらない。担当コーチに話し、直接選手に話すのは了解を得てからである。

 17日。午前の練習にケース打撃があった。サインに応じてバント、バスター、ヒットエンドランなどを行う。この日は初めて投手陣も打席に立った。秋山拓巳、藤浪晋太郎、西純矢らがバントやバスターが決まらない。

 川相が投手コーチ・福原忍に話し始めると、福原が投手陣を集めた。「直接話してください」というわけだろう。実演を交えて指導となった。

 川相は「実戦的な打撃練習を投手が行うのは初めてだったので」と指導した理由を謙虚に言う。「構え遅れや準備の段階での形が少し遅いかなと思ったので、そこらへんを少し。上体ではなく、膝とかを使っての準備を伝えました」。伝えたのは基本的動作である。

 全体練習が終わり、個別練習に移ると、ドーム内で新人の佐藤輝明と中野拓夢、そして北條史也相手に手でゴロを転がしながら指導した。主にバックハンド捕球を繰り返していた。

 この「手投げのゴロ捕り」は川相が若いころ、須藤豊や江藤省三らが施してくれた練習である。美技より安定感や正確性を重んじた川相は<精度を高めていくには、日々の基礎練習に時間をかけていくしかない>と著書『ベースボール・インテリジェンス』(カンゼン)に記している。

 そしていま、注目の佐藤輝の三塁守備について言う。「意外に器用で、自分でも“これぐらいはできる”と思っている。ただ“それぐらい”で簡単には通用しない。もっともっと練習で、もう少し早くボールに移動したり、もっとやっていかなきゃいけない」

 そして最後は「基本に忠実にやってさえいれば、よくなる」。やはり「基本」。これはもう信念である。 =敬称略= (編集委員)

続きを表示

2021年2月18日のニュース