社会人野球 コロナで奪われたアピールの場…日本選手権中止により最悪公式戦「ゼロ」でドラフトへ

[ 2020年4月7日 07:00 ]

コロナで野球が消えた【社会人野球編】

<JFE東日本練習>バットを手に笑顔を見せる平山快(左)と今川(撮影・沢田 明徳)
Photo By スポニチ

 国内から球音が消えた。新型コロナウイルス感染拡大により、プロ野球は「4・24」を目標としていた開幕が再延期となり、アマチュア野球の大会も軒並み延期や中止となっている。スポニチでは、野球が日常となっている「現場」をさまざまな視点からリポートする緊急連載「コロナで野球が消えた」をスタート。第1回は、アピールの場を奪われた社会人野球のドラフト候補たちに迫る。

 満開の桜に囲まれた千葉県市原市のJFE東日本野球部グラウンド。今月2日、のどかな空気を切り裂く「日本選手権中止」の一報を知らされた今川優馬外野手(23)は声を失った。

 「メチャメチャきつい。僕らはアピールの場がないんですから…。つらいです」

 JFE東日本は昨夏の都市対抗で優勝。今川は、打率・381、4打点、1本塁打と活躍し、新人賞に当たる若獅子賞を獲得した。3月31日の日立製作所とのオープン戦では、日本ハム、DeNAのスカウトが視察。DeNAは昨年6月、社会人侍ジャパン代表候補とのオープン戦で3打席連発を目撃してからマークし続けている。今年11月5日に予定されているドラフト会議でも上位候補に挙がる強打者。しかし、コロナ禍で事情が変わった。

 他チームは都市対抗野球(11月22日開幕)出場をかけ夏以降の地区予選に出場するが、JFE東日本は前年覇者の資格で予選が免除されている。今回、JABA地方大会と7月の日本選手権が中止に。6月中旬に予定されている関東地区選手権も開催は不透明だ。今川がスカウトへのアピールの場としていたドラフト前の公式戦が「ゼロ」となる可能性もある。

 4月中のオープン戦自粛も決まり、今は練習の毎日。「目の前の試合に取り組むだけ。(5月以降の)オープン戦にも大勢のスカウトが来てくれてますから」と、今川は現実を受け止め、再びグラウンドへ向かった。

 入社初年度から4番に座るチームメート、平山快内野手(23)は非常事態を理解しようと努めていた。「しようがない部分はある。自分の力では何もできませんから。確かにアピールの場は減りますが、プロ野球も開幕できないように全部が止まってしまっている」。東海大2年春には佐々木千(桜美林大―ロッテ)から決勝ソロを放ち、大学侍ジャパンにも選出されたスラッガーは事態の収拾を信じている。

 チームを勇気づける出来事があった。先月15日に同社グラウンドで行われたJR東日本との練習試合。大学や社会人が続々と無観客を打ち出す中、当時「見学自由」だったこともあるが、駐車場が満車になるほどスタンドが沸いた。野球に飢えたファンが公共交通機関のない球場に集まってきたのだ。その熱視線に今川、平山快らもバットで応えた。

 日本選手権中止発表翌日のミーティング。落合成紀監督(37)は「もう一度、全員で前を向いて、明るい雰囲気でいこう」とナインを奮い立たせた。そして、3週間前の歓声が響き渡った光景を振り返る。「去年のドームの大歓声を思い出したのかな。本人たちの心中は複雑でしょうが、応援はモチベーションです」。逆境をはね返し、社会人野球で成長できた――。そう言えるように今川、平山快は黙々と練習に励んでいく。(伊藤 幸男)

 ≪野球人である前に企業人≫今年からJX―ENEOSに復帰した大久保秀昭監督(50)は社会人球界として今、取り組むべき活動の意義を唱える。「我々は野球人である前に企業人として会社に属している。そこはプロと違う。例えば企業活動の中で地域貢献を要望されたら、即対応すべき準備は整えていく。個人の責任ある行動が求められる」。東日本大震災が起きた11年。チームは8月に宮城県での「東北復興交流試合」に参加した。野球教室も開催し、地元球児を勇気づけた。

 チームは現在、チーム練習も行わず、自主トレ期間としている。3月下旬から部内LINEを活用し、ミーティングもなし。大久保監督は「今は野球ができない状況。世の中が平和でなければスポーツの感動、夢を与えることはできない」と話す。

 国難が終息したら、名門復活へスローガン「ドラマティックチェンジ」を前面に押し出す。「目いっぱいやりますよ」。監督として史上最多タイ、都市対抗3度の優勝を誇る指揮官は雌伏の時を過ごしている。

 ≪野球をやっている場合では…≫最速152キロ右腕のドラフト候補、セガサミーの森井絃斗(20)は数少ないチャンスを生かす。「いろいろな大会で投げたかったけど…。でも、今は野球をやっている場合ではないし、登板する試合で全力を尽くす」。徳島・板野から入社3年目。一昨年は腰痛でチームの都市対抗4強を応援するだけだったが、今はエース格へ成長した。「人間的に成長できたのは会社のおかげ。今年こそ貢献したい」と2年ぶりの都市対抗進出へ意気込んだ。

 ≪勝つためにやってきたのに…≫同じく今秋ドラフト上位候補のトヨタ自動車・栗林良吏(りょうじ=23)は「残念ですが、全部が中止になったわけではない」と力強く話した。対象大会も中止となったことで最速153キロ右腕のアピールの場は激減するが「それよりも、チームとして勝ちたいと思って、ずっとやってきたので、その場がなくなることの方が残念」と言う。チームの今後の活動は未定。「冬にしてきたことをもう一度、やれる時間」と下半身や体幹を強化する期間に充てる。

続きを表示

この記事のフォト

「大谷翔平」特集記事

「始球式」特集記事

2020年4月7日のニュース