14歳まではいろいろなスポーツをしよう NBAの提言に見る日米の違い

[ 2016年10月22日 10:20 ]

キャバリアーズのジェームズ
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】NBAと米国代表チームを統括している「USAバスケットボール」の2団体がこんなガイドラインを発表した。

 「14歳になるまではバスケットボールだけでなく、他のスポーツをしましょう。そしてもし大会に出場したら、少なくとも1日は休みましょう。さらに1年に一度は心身ともにリラックスさせましょう」

 これは6歳から14歳までの子供たちを対象にした「The Jr.NBA」というバスケットボールのイベントを前にして発表された指針。さあこれからバスケを始めようという子供に向かって、なかなかこんなことは言えないものだが、実はきちんとした調査報告を受けての取り組みの一環だった。

 両団体が手にしているデータによれば「若いころから有能だった選手は、思春期を過ぎるまで特定の競技に専念していなかった」とのこと。昨季のNBAファイナルを制したキャバリアーズの大黒柱、レブロン・ジェームズ(31)も高校3年(米国は4年制)まではアメリカン・フットボールとの“二刀流”でスポーツ生活を満喫していた。

 ひとつの競技だけに集中してしまうと、けがやバーンアウト(燃え尽き症候群)につながるリスクも指摘されており、NBA側はより多くの優秀な人材確保のため、あえて「バスケ以外の競技もやろう」と呼びかけたのである。もともと米国の高校や大学では「シーズン制」が当たり前。1年を通して同じスポーツばかりやっている学生のアスリートは少数派だ。季節ごとに複数のスポーツをやりやすい環境が整っているから、それを若年層まで広げようという試みのようにも見える。

 さて日本ではどうだろう。米国のようなシーズン制がないから、野球部やサッカー部、バスケ部に入ると1年中、その競技だけを続けてしまう。しかも猛練習を美徳とする風潮が根強く残っているから、強豪校であればあるほど休みが少ない。東京五輪を迎えるだけに有能な若手選手の発掘が急務のはずだが、それはまず当の本人がどんな競技を選択するかで、すでに道が一本に絞られてしまっている。

 少子高齢化。この問題も日本のスポーツ界にも影響を与えていくだろう。有能な子供たちをうまく各競技に配分していかないと、すべてのスポーツの層が薄くなっていくのは避けられないかもしれない。

 日本で複数のスポーツをしようと思えば、個々の選手が自分で道を模索しない限り、できない。米国の高校生最高峰の大会はあくまでその州の選手権。そこから先の「全国大会」はなく、まだ体と心ができあがっていない高校生を保護できるシステムにもなっている。

 日本スポーツ界の構造は、東京五輪で盛んに使われる「アスリート・ファースト(選手第一)」になっているのだろうか?どうも大人の都合ですべてが構築されているような気がしてならない。「14歳まではいろんなスポーツをしようよ。そしてゆっくり休もうよ。すべてはそこから始まるんだよ」と少年少女に言葉を投げかけたNBAからのメッセージ。日本でも、どなたか聞く耳を持っていただけないだろうか?(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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