直木賞作家・今村翔吾さん 歴史的対局を振り返る「織田信長と武田信玄が戦ったような興奮があった」

[ 2023年3月13日 05:04 ]

第72期ALSOK杯王将戦第6局第2日 ( 2023年3月12日    佐賀県上峰町「大幸園」 )

感想戦で対局を振り返る羽生九段(左)と藤井王将(撮影・西尾 大助)
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 直木賞作家の今村翔吾さん(38)は藤井の防衛で決着した「歴史的対局」を「史実では相まみえることのなかった織田信長と武田信玄が戦ったような興奮があった」と、時代小説家らしく振り返った。

 作家に興味を持ち始めた中学1年の時、将棋を題材にした友人の自作小説を読んで「なんだか悔しいと思ったのが作家を志したきっかけの一つになった」と懐かしそう。夢の対局がフィナーレを迎え「一人のギャラリーとしては幸せな時間をもう少し長く味わいたかったけど、死力を尽くす姿に感動した」と両者を称えた。

 今回の王将戦は「AI時代の天才VS復活した天才」「若き王将の座を熟練の将が狙う」という構図。さらに第5局まで全て先手番の勝利と一進一退の攻防で「小説より小説らしい凄い展開になった」と評した。

 32歳差の2人による激しいつばぜり合い。重ね合わせたのは天下人の信長と「戦国最強」と呼ばれた信玄だ。

 藤井はかつてスポニチ本紙のインタビューで自身を武将に例えるなら信長と答えたことがある。今村さんは「AIを凌駕(りょうが)する指し手。攻め時の苛烈さ。負けん気の強さ。盤上ではまさに信長でしょう」と指摘。一方、羽生については、信長より年上で幼少期から「神童」として名をはせた信玄に重ねた。両武将は生涯一度も直接対決することはなかったが「その2人が対峙(たいじ)したような感じが今回の王将戦にはあった」と興奮を口にした。

 「歴史にifはないと言われるけど、本能寺の変で信長が生きていたら、信玄が病死していなかったらとかifの要素が多ければ多いほどロマンがあって人々の記憶に残る」と言う。もし第7局までもつれていたら、先手番と後手番を決める振り駒の行方はどうだったのか。藤井と羽生という2大スターが刻んだ歴史にも語り尽くせない「if」があり「伝説になっていく」とした。

 そして「今はSNSの時代なのでどんどん(感想などを)発信してほしい。雑多なものでも感情論でも構わない。後世の人たちは皆さんの投稿を見て、この対局がどういうふうに見られていたのか判断していくと思います」と今村さん。この歴史的対局を目撃した全員が「歴史書の参加者です」と呼びかけた。(安田 健二)

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