節目の100期はお預けも健在証明 羽生九段「非常に勉強になった」 

[ 2023年3月13日 05:07 ]

第72期ALSOK杯王将戦第6局第2日 ( 2023年3月12日    佐賀県上峰町「大幸園」 )

第2図
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 挑戦者・羽生善治九段(52)は藤井の前に力及ばなかった。第1日の封じ手前から徐々に形勢を損ね、最後は持ち時間を1時間17分残しての早すぎる終局。タイトル通算100期獲得は今夏以降にお預けとなった。

 午後3時56分の投了直後だった。鉛色の雲から小雨が降り始める。悔しさをかみ殺した羽生の心中を象徴したかのように。

 「封じ手(▲3四銀)のところは、もう悪いと思ってました。その前に問題があったのでは」。昨年11月に自身が敗れた戦型をチャレンジ精神で藤井にぶつけたものの「手が難しい将棋になった。なかなかいい組み合わせが見当たらなくて、ちょっとずつ苦しくしていったかなと思います」と顧みる。

 一手指すごとに差が広がっていく第2日、それでも意地を見せた。67手目の▲2一角(第2図)は藤井を「このタイミングで」と驚かせた好手。応手の△3一歩を促し、結果3七に歩を叩けない状況を生み出した。相手の進撃を一時停止させる大駒の打ち込みだった一方で、有効的な継続手を発見することはできなかった。感想戦では自陣に手を入れて粘る筋が判明。「それをやれば(形勢は)難しかったんだ…」と無念の弁が口をつく。

 世紀の対決となった今シリーズ。無敵の史上最年少5冠に挑んだ羽生は劣勢がささやかれる中で2勝を挙げ、人々の喝采を浴びた。人工知能(AI)に限りなく近づこうとする藤井に対し、最善手を迷わせる秘術で対抗。52歳にして最新形を避けることなく、古びたように見える戦型をあえて投入するなど、タイトル戦を「実験」の場に変えてしまう大胆さは実に若々しい。

 「いろいろ(作戦を)やってみたのですが、全体的に指し手の正確さ、精度を上げなければ。非常に勉強になったシリーズでもありました」

 節目のタイトル100期には、あと2勝及ばなかった。だが今夏の王位戦は挑戦者決定リーグの真っ最中。王将戦も秋に開幕する挑戦者決定リーグ次第では、来期のリターンマッチは十分可能だ。「自分自身の至らないところを改善して次に臨めれば、ですね」。

 向上心を失わない羽生善治は、きっと夢舞台に帰ってくる。リターンマッチは意外に早く実現するかもしれない。(我満 晴朗)

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