羽生九段長考直後の藤井王将鮮烈△5七銀 

[ 2023年3月13日 05:06 ]

第72期ALSOK杯王将戦第6局第2日 ( 2023年3月12日    佐賀県上峰町「大幸園」 )

A図
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 【関口武史 明暗この一手】59手目、羽生の封じ手は▲3四銀。藤井の桂跳ねに対処した印象を受ける手で2日目が始まった。直後、藤井が静かに△5二王と王形を安定させた局面。左右に開いた金の配置は先後とも鏡に映ったように同じだが働きに大きな差が出ている。

 羽生陣は左金が左辺の防御のために制約があり、実質、左右分裂の陣形となっている。対して藤井陣の両金は、飛角銀桂の自由度を支える縁の下の力持ち。後手は王・金2枚以外の駒が全て攻め駒として活用できる準備が整っている。藤井は自陣左辺に駒を集約し、羽生の左金を相手にせず、敵王の制圧を目指す方針。その構想が△4五銀上で実現する。

 逆に羽生は素直に▲同銀上△同銀▲同銀△同桂と清算すると、次に後手から繰り出される△3七歩が猛烈に厳しい。なので、銀ぶつけに対し▲2一角が後手の攻め幅を狭める羽生の勝負術。底歩を打たせ、二歩禁止のルールを逆用し、先手陣の攻めを緩和している。

 明暗は70手目△4五同桂(A図)と、藤井が銀を取り返した局面。67分の長考で羽生は▲6四歩と攻め合いに活路を求めたが直後、藤井に△5七銀という鮮烈な決め手を与えてしまった。戻ってここで▲6八金と懸案の左金を活用するのが有力だった。

 以下△2二金▲6一銀△同王▲4三角成△5二銀▲3四馬と銀損覚悟で馬を作り、後手の攻めを焦らす展開が藤井の恐れていた手順。局後、藤井にこの手順を問われた羽生は驚きを隠せず、盤上に示された3四の馬を見つめる姿には無念さがにじんでいた。(スポニチ本紙観戦記者)

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2023年3月13日のニュース