菜葉菜に凄みを感じた

[ 2018年9月16日 09:00 ]

菜葉菜
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】映画やテレビドラマを見ていると、気になってしかたがなくなる女優さんに出くわすことがある。一度頭の中に名前がインプットされると、ついつい他の作品を追いかけたりもする。例えば床嶋佳子、あるいは筒井真理子。そして、この人からも長いこと目が離せないでいる。

 2001年に園子温監督の「自殺サークル」でデビューした菜葉菜だ。05年公開の初主演作「YUMENO」のオーディションに3000人の中から選ばれた時に初めてインタビューしてから何度か取材を重ねてきた。

 「ヘヴンズストーリー」(10年)、「64―ロクヨン―」(16年)、昨年公開の「ナミヤ雑貨店の奇跡」「追憶」など、主役、脇役問わず順調にキャリアを積んできた彼女が年々まぶしくなっていったが、どうやら新たな代表作が誕生したようだ。来年2月に公開が決まった映画「赤い雪 RED SNOW」がソレ。「がっちりお芝居出来てうれしかった」と感激する永瀬正敏とのW主演で魂の演技を見せている。

 作品は30年前に起こった少年失踪事件を巡って展開するミステリー・サスペンス。実際にあった事件をモチーフに甲斐さやか監督が自ら脚本も書いてメガホンを取った。初長編に挑んだ監督の情熱を実力派の俳優陣がそれぞれ丹念にすくい取り、重厚で緊迫感あふれる作品に結実させた。映像の美しさにもぐっと吸い寄せられた。

 奈葉菜が演じたのは容疑者の娘・江藤小百合。雪の日に消えた少年の兄に永瀬が扮し、真相を巡って対じする2人の迫真演技は胸に刺さってくる。雪中格闘シーンは最大の見どころだ。

 久しぶりにインタビューした。甲斐監督から「小百合はぜひ菜葉菜さんで!」と熱烈なラブコールを送られての出演だったという。脚本もあらかじめ彼女を想定して書かれていたが、セリフを極力そぎ落とし、表情の微妙な変化で感情を表現しなければならない難役だった。

 内容の詳細は書けないが、小百合は幼少期から過酷な日々を送る。「小百合が育ってきた環境、背景には特殊性がある。それを監督が勧めてくれた本を読ませて頂いたり、ネットを見て参考にして体の中に入れていきました。そこに説得力がないと、見ている人に伝わらないんじゃないかなと思ったので」

 時に監督と衝突したこともあったと打ち明けたが、そうして内面から作っていった「小百合」の存在は紛れもなく作品の要に位置した。覚悟の“初脱ぎ”も話題を呼ぶ。夏川結衣扮する母親の内縁の夫を演じた佐藤浩市が濡れ場の相手だ。撮影前、「佐藤さんから“菜葉菜にとっては勝負の作品になると思うから、それくらいの覚悟を持って頑張れよ”と言ってくれた」と明かす。ありがたかった。

 「昔から脱ぐことに抵抗はなかった」と告白。「ただし、巨乳でもないし、男っぽいし…。そういうお話が来ることがなかったんです」と笑った。そういえば、「YUMENO」のヒロインに決まった時の取材でも大胆な発言をしていた。当時の記事を引っ張り出すと、憧れの人として「ザ・レイプ」(82年)の田中裕子や「ボク東綺譚」(92年)の墨田ユキを挙げ、「濡れ場も美しいし、色っぽい。私も脱ぎたいんです!」と書かれている。

 リラックスさせようとしてだろう。佐藤から「こういうシーンはオレも何十年かぶりだ。思い切ってやろう」と言われたそうだ。そんな佐藤について「ツメをのばしてきたり、歯を黄色くしてきたり、とにかく役作りへのこだわりが凄かった」と思わず脱帽した。

 他にも「共演してみたかった」という井浦新が事件の真相を探る記者の役で出演するなど、キャストは実に豪華。そんな中で永瀬と火花を散らした菜葉菜は「小百合は孤独。誰も味方じゃないと思いながら演じましたが、それが良かった。仲良しこよしの現場だったら、あんな顔にはならなかった。監督も含めてみんな戦ってたんだと思いました」と言葉に力を込めた。

 30年前に何が起こったのか―。あいまいな記憶の果てに真相はあぶり出されるか。「皆さんがどういう感想を持つのか聞きたい」と菜葉菜は雪の季節、年明け2月の公開を楽しみにしている。

 ◆佐藤 雅昭(さとう・まさあき)北海道生まれ。1983年スポニチ入社。長く映画を担当。

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