厳しさは優しさ…脚本家・足立紳、長編映画監督に“罵詈雑言”妻認めた「面白い」

[ 2016年12月17日 09:30 ]

映画「14の夜」で長編映画監督デビューする足立紳監督
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 日本アカデミー賞脚本賞を受賞した映画「百円の恋」(14年)を契機に注目が集まる脚本家の足立紳(44)が、12月24日公開の映画「14の夜」で長編映画監督デビューする。26歳の脚本家デビューから18年。遅れてきた映画監督が、作品を発表するまでに至った道のりには、日々“罵詈雑言”をぶつける妻の存在があった。

 構想に8年以上。メガフォンを取ったのは、日本映画学校の卒業製作作品以来約20年ぶり。「企画が通った時は嬉しさの反面、“ヤバいな”という気持ちが正直あった。卒業製作の発表会では“演出能力ゼロ!”と講師陣から酷評の嵐でしたから。そのトラウマがよみがえった」。

 ビビリからのスタートだったが、現場に入れば映画人。ブランクは関係なかった。「撮影中は手応えを感じる場面も多く、卒業製作とは真逆にクランクアップを迎えるのが寂しかった。当時酷評した講師陣にも観てほしい」と納得の出来。AV女優が近所のビデオレンタルショップでイベントをやるらしい、という噂を聞きつけた思春期真っただ中の冴えない少年たちの一夜の冒険と成長を、ほろ苦い笑いで描き出した本品は、足立監督の少年時代の思い出が色濃く反映されている。

 今年は監督デビューのほか、小説家デビュー、テレビドラマ「佐知とマユ」では第4回市川森一脚本賞を受賞。節目の年になった。妻も大喜び、これまでの頑張りを労ってくれるのかと思いきや、「妻の態度は全く変わりません。いろいろな賞をもらっているから、そろそろひれ伏してほしいけれど、“調子に乗るんじゃねえ!”と怖い感じで言い返してくる。どうすれば認めてくれるのか、これからも考えていきたい」。

 このおっかない妻の存在がなければ、道は開けなかったといえる。「“1回でいいから罵詈雑言を後悔させてやる!”という妻に対する恨みつらみ。妻からはよく“あんたはしつこい”と言われていましたが、そのしつこさも脚本を書き続ける上での執着になったのかもしれない」。怨念と執念。これが長編作品発表へたどりついた原動力だった。

 相米慎二監督のもとで修業しながら、26歳で脚本家デビュー。「脚本家として売れっ子になって、32歳くらいで念願の映画監督デビューをするという青写真を思い描いていた。でも現実はそうはならず、そのままズブズブと沈むばかり。潜伏期間歴は十数年」。30歳で結婚し、子宝にも恵まれるも一向にうだつが上がらない。夢を諦めて就職活動をしようとするが、その仕方がわからず何となくのフリーター生活に突入。当時は「ただでさえドン底なのに家では妻がとにかく大きな声で怒鳴る。もうボロカスに言われてヘコむという暗黒時代でした」。作品を発表する場所はない。それでもオリジナル・ストーリーだけはひたすらに書き続けた。

 その妻も、募るイライラのはけ口に罵声を浴びせるだけではなかった。生活を切り詰め、コツコツ貯めた貯金は200万円。夫に監督デビューのチャンスが訪れなかった時のために、自主製作資金の足しにという思いだった。「妻から面と向かって“アンタは才能があるから頑張れ”と励まされたことはない。でも“書くのをやめれば?”と言われたことも一度もありません」。書き上げたストーリーに最初に目を通すのは妻、というルールは今も変わらない。一番厳しいことを口にする人は、実は一番の理解者であり応援団長なのである。

 日本映画学校の創設者・今村昌平監督は、卒業する生徒たちに向かってこうメッセージを送った。「映画業界での打たれ強いボクサーになれ」。これまで打たれまくられた足立監督に、完成した『14の夜』を観た妻はこう言った。「アンタが携わった作品の中で一番面白い」と。普段は辛口批評家の妻が“珍しく”太鼓判を押した。妻の貯金を使うことなく果たした長編映画監督デビュー作で、44歳の男が反撃に転じる。(石井隼人)

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