「ドラフトキング」は誰だ!?作者クロマツテツロウ氏も注目 下位指名から球史に残る選手を発掘せよ

[ 2023年5月2日 05:00 ]

仕事場で机に向かうクロマツテツロウ氏(撮影・小海途 良幹)

 ワシらが発掘すべきはドラフトキングや――。プロ野球の敏腕スカウトを題材にした人気野球漫画「ドラフトキング」が今春ドラマ化された。同作品を作り上げた作者のクロマツテツロウ氏が、制作秘話とともに「ドラフト超豊作年」といわれる今年のドラフト候補イチ推し選手を挙げた。ドラマは4月8日からWOWOWで放送がスタートした。(企画・構成 柳内 遼平) ドラフト速報

 落合博満はドラフト3位、イチロー、山本由伸も同4位でプロ入りした。新人王こそ獲得していないが、いずれもプロ野球史に名前を刻むトップ選手だ。年数を重ねてNo・1となる選手を発掘する醍醐味(だいごみ)。クロマツテツロウ氏は「僕の中では新人王が必ずしも優秀な選手ではなく、その年のドラフトで(最終的に)一番優秀な選手が“キング”。それを引っ張ってくるのがスカウトの仕事と説明したかった」と作品誕生を支えた思いを明かした。

 主人公は凄腕スカウト・郷原眼力(オーラ)。独自のスカウティングで他球団を出し抜くサプライズ指名などで、生き馬の目を抜く世界を駆け抜ける。高校、大学、社会人、プロで複雑に交差する人間模様が魅力。現役スカウトや甲子園優勝経験を持つ名門校監督にも熱烈ファンがいる。

 巨人の星、ドカベン、H2、MAJOR、ダイヤのA…。従来の名作野球漫画の主役は選手で、主に高校野球が多かった。「商業的に人気のある高校野球がテーマになりやすかった。ただ、大学や社会人も本当に面白いしアツい。そこを描くためにどうすればいいか考えた時に“スカウトだ”と」。スカウトを主人公とし、幅広くアマチュア球界を描く物語を生み出した。進学かプロかで悩む高校生、リーグ戦登板が乏しいにもかかわらず注目される大学生投手など、リアルなエピソードも盛りだくさんだ。

 緻密な描写の秘訣(ひけつ)は取材にある。時には社会人野球チームに足を運び、スカウトにも直撃取材。ダルビッシュ(パドレス)、大谷(エンゼルス)らを担当し、粘り強いスカウト姿勢から「マムシの今成」といわれた元日本ハムスカウトの今成泰章さん(享年66)にも取材を行った。他にも黒田博樹らを担当した広島・苑田聡彦スカウト統括部長らを取材。打球音、ユニホームの着こなしなどプレー以外で選手を見極めるすべも授かった。

 東洋大の最速155キロ左腕・細野晴希、高校No・1左腕の大阪桐蔭・前田悠伍ら今年は「超豊作」ドラフトといわれる。同氏のイチ推しはENEOSの外野手、度会隆輝。優勝した昨年の都市対抗決勝で、東京ドーム右翼席への一発を生観戦し「飛ばし方が異常。パワーで飛ばすというよりも吉田選手(レッドソックス)みたいなバネがある。インタビューでも球場を盛り上げて性格も魅力的です」と“キング”候補の一人とした。歴代最多とされる高校通算117本塁打の花巻東・佐々木麟太郎にも「強い相手とやってあの数字。(父の)佐々木洋監督がいるので野球脳も高いでしょうし本当に楽しみ」と期待する。

 「みんな野球が好きという根底だけはブレないようにしている。野球に興味がない人にこそ読んでほしい。野球ってほんまにヒューマンドラマなんですよ」。ペンを持つ横顔は選手を見極めるスカウトのように鋭かった。

 ▽ドラフトキング グランドジャンプ(集英社)で18年から連載中の野球漫画。最新の単行本14巻は3月17日に発売。主人公は横浜ベイゴールズのスカウト・郷原眼力。作中には社会人野球のスポイチ大会、社会人野球チーム・万田自動車、花崎徳丸高校などが登場する。4月8日からWOWOWでムロツヨシ主演でテレビドラマが放送開始。4月29日までに4話まで放送されている。

 ◇クロマツテツロウ 11月17日生まれ、奈良県出身。西の京高卒業後、宝塚造形美術大(現宝塚大)絵画学科に進み油絵を専攻。05年に「とんずらmy way」で、ちばてつや賞(ヤング部門)準優秀新人賞を受賞。11年「バーコードロボ」が小学館新人コミック大賞入選。13年から月刊少年チャンピオン(秋田書店)で連載の「野球部に花束を~Knockin’ On YAKYUBU’s Door~」が昨夏、実写映画化。またゲッサン(小学館)で「ベー革」連載中。「ヤキュガミ」など野球漫画多数。

 ≪DeNA吉見スカウトも絶賛「本当に面白い」≫東北福祉大から逆指名のドラフト2位で横浜入りし、ロッテ、阪神の3球団で通算44勝を挙げたDeNA・吉見祐治スカウト(44)も読者の一人。20年にスカウトに転身し、昨年は駒大から3位指名された林らを担当した。

 本職から見た作品を「皆、読んでいます。スカウトの私たちが読んでも本当に面白い」と絶賛。長距離砲のドラフト候補が好投手に対してバットを小指1本分短く持って決勝打を放ったものの、スタイルを貫けなかったことで評価を下げて指名漏れとなったエピソードを挙げ「的を射ている。ああいう細かいところを評価しています」とした。

 21年ドラフトでは最終学年の3年で急成長した専大松戸(千葉)のサイド右腕・深沢鳳介を5位指名。高卒1年目の昨季は1軍登板なしも、今季は2軍で先発ローテーション入りと一歩ずつ成長。「新人王を獲れたらもちろん良いですけど“5年後にどういう姿になっているか”とか“10年プレーできるか”とかを一番意識しています」と“ドラフトキング”発掘を目指している。

 ≪「スポニチスカウト部」が「スポニチドラフトキング」に改題!?≫【取材後記】野球を題材にした映画や漫画では、残念に感じることも多い。仕事として野球に接しているだけに、リアリティーのない描写が出てくると途端にさめてしまうからだ。本作の舞台はまさにアマチュア野球担当記者の仕事場そのもの。選手にスカウトが目を光らせ、進路には学校、企業、家庭、指導者らの思惑が複雑に絡み合う。実情を見事に描き切った作品で、読みながら世界観にのめり込んだ。

 本紙は昨年から毎週、ドラフト候補選手を特集する「スポニチスカウト部」を始動。取材終わり、クロマツテツロウ先生に思い切って聞いてみた。企画名を「スポニチドラフトキングに改題してもいいですか?」。回答は保留中だが、主人公のような思いで取材を続けたい。

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