【内田雅也の追球】結果に対する責任は取る「打て」の作戦には岡田監督の信念や覚悟がひそんでいる

[ 2023年2月24日 08:00 ]

練習試合   阪神3-9中日 ( 2023年2月23日    北谷 )

<中・神>初回、遊ゴロ併殺打に倒れた大山(右)
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 好天の祝日、中日キャンプ地、アグレスタジアム北谷のスタンドはほぼ満席だった。それでも鳴り物はなく、静かだった。阪神はビジターで練習試合である。

 「おーい、大山~」と独り、ヤジを飛ばす男性がいた。声がよく通る。「ゲッツーだけはやめてくれよ~」

 1回表、1死一、三塁で打席には4番・大山悠輔がいた。カウント2ボール―2ストライクから中日先発、小笠原慎之介得意の外角チェンジアップを引っかけ、遊撃前にゴロが転がった。

 「あ~~、あ~~、あ~~~」先ほどの男性が叫び声をあげた。「ゲッツーだけは打つなと言っただろう」。シーズン中の甲子園球場ならため息が銀傘にこだましていたかもしれない。6―4―3の併殺打。先制機をフイにしたのだった。

 北谷の臨時記者席はバックネット裏のスタンドにあり、三塁ベンチの監督・岡田彰布の表情は見えなかったが、別段気にもとめていなかったはずである。

 「『打て』はゲッツーも含めての『打て』なんよ」と、これまで幾度も岡田から聞いていた。

 「監督が『打て』と指示しているんや。選手は思いきって打てばいい。それだけよ。『打て』と言っておいて『ゲッツーは打つな』なんてバッティングの指示はないよ。変に右打ちみたいなことをする必要もない。『打て』と言われて打って、打てなかったら、それは監督の責任なんよ」

 指揮官として、ある種の覚悟を感じる。指示はするが、結果に対する責任は取るというわけだ。

 岡田は阪神2軍監督に就任した当初(1999年)、2軍戦で好機に打席に向かう4番・北川博敏(現2軍打撃コーチ)が萎縮しているように見えた。併殺打を恐れていたのだ。岡田はあえて「ゲッツー打ってこい」と送り出し、思い切った打撃を命じている。

 この日は4回表無死一塁で梅野隆太郎も遊ゴロ併殺打に倒れた。シーズン中なら送りバントを指示していたかもしれない。

 前日から進塁打やヒットエンドランなど攻撃のサインも出すとしていた試合だったが、試合後「今日は何もなかったやろ」とサインを出す機会はなかった。

 つまり、全打席が「打て」だったわけだ。広い意味で言えば「打て」も監督の作戦である。そして、その「打て」には監督の信念や覚悟もひそんでいる。=敬称略=(編集委員)

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2023年2月24日のニュース