「復活」ではなく「進化」 阪神・藤浪の黄金比 「時代は緩急」極めた変化球で理想の「直球5割切り」

[ 2022年8月30日 05:15 ]

阪神・藤浪
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 「復活」ではなく「進化」だ。阪神・藤浪晋太郎投手(28)が8月上旬の再昇格後、4試合連続のクオリティースタート(QS=6回以上、自責3以内)を記録するなど好投を続けている。要因として浮かび上がるのは昨春から掲げてきた球種の割合の“黄金比”。本人の過去の発言や長年バッテリーを組んできた梅野の証言、データも交えて「新生・藤浪」に阪神担当の遠藤礼が迫った。

 「時代は緩急ですよ」。そんな言葉を最速162キロの藤浪から聞いたのは、開幕直前のことだった。

 「自分の球速帯で遅い球を張って、速い球は対応しにくいはず。打者からすれば、いつ直球が来るのかな…と。相手の頭の中をどう操作できるか」

 高卒1年目から150キロ超の直球と鋭角に曲がり落ちるカットボールの2球種を主体に勝負。一方で現代野球では150キロは珍しくなくなり、簡単に打ち返される。スタイルチェンジを模索してきた藤浪が昨春から理想として掲げてきた球種の“黄金比”がある。

 「直球の割合が5割弱になるぐらいに他の球種の精度が高くなればいい。フォーシームの割合を抑えられれば、相手の反応もだいぶ変わってくる。5割を切ることを目標にするわけじゃないですけど、他の球種の精度が高ければ、勝てる確率も上がるのかなと」

 “5割切り”は藤浪にとって世界が変わるほどの変革だ。過去9年で直球の割合が50%を切ったのは19年の1度だけ。ただ、この年は登板1試合で参考にはできない。他のシーズンはすべて50%を超え、60%以上も2度ある。1試合100球と想定し、50球だった直球を40球に減らすためには“代用の10球”が必要。活路を見いだしたのが「自分の中でカウント球にする選択肢は今までなかった」というスプリットだった。

 20年途中から勝負球だけでなく、カウント球としても投げ始め、精度向上に取り組んできた。10年目を迎えた今季、8月の再昇格後は4試合連続でQSを達成して2勝。13日の中日戦と20日の巨人戦は直球が40%台にとどまり、スプリット(フォーク)がスライダー(カットボール)の割合を上回った。今季の全803球を見ても直球49・7%で黄金比を体現できている。

 変化を最も体感しているのが、8月の先発4試合すべてでバッテリーを組む梅野だ。直球が40%台になったデータを提示すると何度もうなずいた。

 「今はスプリットで空振りが取れるから直球で詰まらせられる。直球と、その他の変化球のパーセンテージも自然とそうなる。直球が5割切るぐらいの方がいいピッチングをしていると今は感じる。“復活”とはまた違って“進化”してる感じですよね」

 2勝目を挙げた27日の中日戦では相手のスプリット狙いを察知し、直球の割合を増やして7回1失点にまとめた。投球フォームの安定で制球不安が解消され、球種に固執せず臨機応変に腕を振れている。もちろん、武器が直球であることも藤浪は忘れてはいない。

 「自分の武器を生かしながら。変化球の割合が増えれば、直球の意識が薄れて効いてくる。速ければいいという時代は終わっても、準備しないと打てないのが150キロ後半のボール」

 今季の直球の空振り奪取率(9・5%)は昨年(6・6%)、一昨年(6・3%)と比べて向上。武器を生かして、効かせることができている。それでも、これがゴールではない。「時代は緩急」と言ったように中日戦でも1球にとどまったカーブなども交えることができればさらに理想に近づく。復活ではなく、進化――。藤浪晋太郎の“最終形態”はまだ先にある。(遠藤 礼)

 《3勝目へ聖地で9月3日巨人戦先発》藤浪は登板2日後に当たる29日は休養日のため、甲子園での投手練習には姿を見せなかった。次回も順番通り中6日で9月3日の巨人戦に登板予定。甲子園での先発マウンドは4月8日広島戦以来、約5カ月ぶりで、勝てば昨年4月16日のヤクルト戦以来505日ぶりの本拠地白星になる。巨人は20日の対戦で7回1失点に抑えて今季初勝利を挙げただけに、快投が再び期待される。

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