【内田雅也の追球】無限の可能性を探る本塁スライディング練習 間一髪を極める姿勢が優勝の行方を決める

[ 2022年2月22日 08:00 ]

本塁へのスライディング練習で、ホームベース脇に置いたタオルに触れる近本
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 二塁走者が単打で三塁を蹴り、本塁へ突入する。間一髪アウトかセーフか。本塁上のスライディングは得点の有無に直結する重要プレーだ。

 阪神が午前の練習で今キャンプ初めて行ったのは「ホームスライディング」の練習だった。

 野手全員が二塁から本塁へ各2本行った。1本目は本塁へ足から真っすぐに滑る。練習を指揮した外野守備走塁・分析担当コーチの筒井壮が何人かに「もっと(本塁の)近くで滑れ」と指導していた。一、二、三塁のキャンバスとは違い、平面の本塁へは速度を落とさないことを第一に滑る距離を短くしていた。

 ひと昔前であれば、まともに捕手と激突するが、今は本塁は見えている。2016年にプロ野球でコリジョン(衝突防止)ルールが適用され、捕手のブロックも禁止。スライディングも新しいスタイルができている。

 2本目は捕手のタッチをかわす練習だった。タイミングが微妙でも滑り方次第で得点を奪える。三本間の走路の外側を走り、左足を下にして足から滑り、左手で本塁に触れる。五角形の本塁の三角部分にタオルを置き、手で触れる目印にした。

 バッテリーコーチ・藤井彰人の声も参考にしていた。現役捕手時代、タッチしづらかった走者に中日・荒木雅博(現中日内野守備走塁コーチ)をあげていた。走路の外側を走り、本塁を手で掃くように滑っていた。

 練習では真っすぐヘッドスライディングした者もいた。近本光司は右足を下に滑って回り込み右手で本塁に触れていた。

 「いろんな可能性を探っています。僕はセオリーという言葉を使いません。絶対がないからです」と筒井は言った。「リードの取り方、三塁の蹴り方、本塁の滑り方……一つの型にはめずにやっています」。間一髪を極める姿勢と言えようか。

 昨季は1勝差で優勝を逃した。「あれがセーフなら……」という痛い本塁憤死があったと言い、昨年11月の秋季練習で随分取り組んだそうだ。

 阪神が奇跡と呼ばれた逆転優勝を果たした1964(昭和39)年には語り草のスライディングがあった。負ければ相手が優勝の9月26日、大洋戦(甲子園)で2―2同点の8回裏、暴投で三塁から本塁を突いた本屋敷錦吾は投手・稲川誠のタッチをかいくぐって決勝生還を遂げている。

 間一髪が優勝の行方を決めるという覚悟、と書いておく。 =敬称略=
 (編集委員)

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