気がつけば40年(32)史上空前の混セとなった1992年 69勝で制したのは野村ヤクルトだった

[ 2020年11月15日 05:30 ]

阪神との直接対決を制して14年ぶり2度目のリーグ優勝を果たしたヤクルト。1992年10月11日付スポニチ東京版
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 【永瀬郷太郎のGOOD LUCK!】記者生活40年を振り返るシリーズ。今回は空前の混戦となった1992年のセ・リーグについて書きたい。

 10月10日、甲子園球場。スタンドの一部から「帰れ!」コールが響く中、野村克也監督の体が宙を舞った。

 「1年目に種をまき、2年目に水をやり、3年目に花を咲かせたいんや」

 ヤクルトの監督に就任し、ID(インポート・データ)野球を掲げて3年目での満願成就である。

 69勝61敗1分け、勝率・531。V9最後の年となった1973年の巨人の・524(66勝60敗4分け)に次ぐ低勝率での優勝が混セを物語っていた。

 めまぐるしく展開が変わったシーズン。4月に8連敗を喫するなど5月に最下位に沈んだ巨人が6月に入って10連勝、1つ負けて4連勝、さらに1敗を挟んで7連勝して首位に駆け上がり、前半戦を1位で折り返した。

 ヤクルトはその巨人を相手に球宴明けの3連戦で3連勝し、首位の座を奪い返した。8月に入って7連勝するなど一時は2位に最大4・5ゲーム差をつけたが、月が変わって長いトンネルに入る。

 上位球団がグッと接近。9月12日の時点で首位ヤクルトからゲーム差なしで阪神、0・5差で巨人、さらに2差で広島。上位3球団が0・5、4球団が2・5ゲーム差の中にひしめいた。

 ヤクルトの連敗は9まで伸び、その間に7連勝で首位に立ったのは阪神だった。

 この年、本拠地・甲子園球場のラッキーゾーンが撤廃され、広くなった外野で亀山努、新庄剛志といったスピードスターが台頭。被弾の怖さが軽減された仲田幸司、湯舟敏郎、中込伸、野田浩司ら先発投手陣が思い切り腕を振った。

 広島、巨人が脱落していく中、いったん3位まで落ち、阪神に最大3・5ゲーム差をつけられたヤクルトが再浮上していった。起爆剤となったのは荒木大輔だ。

 9月24日の広島戦(神宮)、2―3と1点ビハインドの7回2死一塁の場面で登板。2度にわたるトミー・ジョン手術、椎間板ヘルニアを乗り越えた右腕にとって4年ぶり、1541日ぶりのマウンドだった。

 赤ヘルの主砲・江藤智に対し、初球135キロの直球で内角をえぐり、最後はフォークボールで空振り三振に仕留めた。その裏、古田敦也の左越え2ランで逆転。そのまま4―3で勝った。

 荒木は10月3日の中日戦(神宮)に先発して7回を2安打無失点に抑えて4年4カ月ぶりの勝利を挙げ、阪神との差を1ゲームとして、6日からの直接対決2連戦(神宮)を迎えた。

 岡林洋一と仲田の投手戦となった初戦は7回に広沢克己の一発が飛び出し、1―0で勝って首位に並んだ。2戦目は1―3で迎えた9回1死一、二塁の場面で中込を救援した湯舟から八重樫幸雄、ジョニー・パリデスが連続四球を選んで1点差。2死後、飯田哲也の三塁内野安打で追いつき、荒井幸雄の左前打で逆転サヨナラ勝ちを収め、単独首位に立った。

 9日は広島に7―2で快勝したヤクルトに対し、阪神は中日に0―1で負け、その差2ゲームに広がった。

 互いに残り2試合は10日から甲子園で行われる直接対決。ヤクルトはひとつ勝てば優勝、阪神は連勝してプレーオフに持ち込むしかなかった。

 10日の大一番。ヤクルトの先発マウンドに立ったのは復活勝利から中6日の荒木だった。早実時代5度経験した聖地。5回を5安打1失点に抑え、後続に託した。

 初回から1点ずつ小刻みに奪った5点。荒木から加藤博人を挟んで6回途中から登板した伊東昭光が阪神の反撃を9回の1点に抑えて、歓喜の瞬間を迎えた。

 遊軍記者の私は敗者の取材に回った。最後の勝負所で5連敗。2年連続最下位からの優勝という大魚を逃した中村勝広監督は、いつものように仁丹の匂いをさせながら静かに口を開いた。

 「中村自身が力不足だったんじゃないですか。ただ若手選手にとってはこれだけの体験をしたことが、これから先、必ず大きな財産になると確信しています」

 しかし、中村監督にとってはこれが最初で最後のチャンスになった。翌年から4位、4位と続き、1995年は首位ヤクルトに20ゲーム差の5位に低迷していた7月23日、引責辞任した。

 一方、野村監督は1998年までヤクルトの指揮を執り、9年間でチームを4度のリーグ優勝、3度の日本一に導くのである。 (特別編集委員)

 ◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年9月生まれの65歳。岡山市出身。80年スポーツニッポン新聞東京本社入社。82年から野球担当記者を続けている。

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