【内田雅也の追球】暗示の『2020年の挑戦』――阪神が目指す全員野球

[ 2020年1月11日 08:40 ]

東京五輪に注目が集まり、阪神-南海・日本シリーズ開幕セレモニーのスタンドも空席が目立った(1964年10月1日・甲子園)=阪神球団発行『阪神タイガース 昭和のあゆみ』=
Photo By スポニチ

 水泳選手やスポーツカーを乗り回す若者らが姿を消す怪事件が相次いで起きる。やがて、それは2020年のケムール星にすむケムール人の仕業だと分かる。

 1966(昭和41)年放送の特撮テレビドラマ『ウルトラQ』の秀作『2020年の挑戦』である。臓器移植や人工血液も普及し、寿命が500歳に達した。だが、若い肉体が不足していた。時空を超え、地球人をさらいに来ていたのだ。

 実際に2020年を迎えたいま見返せば、高齢化を予言している。<タイトルのもとの意味はケムール人のいる未来世界「からの」挑戦だったはずである。だが、これを「への」挑戦ととらえるならば、それは来るべき未来への日本の挑戦と理解できる>と文芸・文化評論家、小野俊太郎の『ウルトラQの精神史』(彩流社)にある。<半世紀経っても解決されない疑問をたくさん投げかけている>。

 ケムール人は神田博士が完成させたKミニオードを使ったXチャンネル光波を東京タワーから放射して倒す。後に続くウルトラマンはまだいない。<怪獣と向き合うのは、仮面をつけたり忍者姿の不死身の英雄ではなくて、あくまでも生身の人間たちである>。絶対的なヒーローはいないのだ。

 2020年を迎えた年頭6日の阪神球団年賀式で、球団社長・揚塩健治は優勝に向け「機は熟した」と気勢を上げた。理由の一つとして「前回、東京オリンピックが開かれた年、優勝はタイガース」だった。

 『ウルトラQ』の撮影が始まったのが、東京五輪が開催された1964(昭和39)年だったそうだ。流行語にもなった体操の「ウルトラC」から名づけられた。

 64年の阪神はシーズン終盤の大逆転で、大洋(現DeNA)を振り切った。29勝をあげたジーン・バッキーがヒーローで大車輪の働きを演じた。

 今年はどうか。監督・矢野燿大が目指すのは全員が前を向く野球だ。ヒーロー不在で結構。『ウルトラQ』のように、生身の人間たちが一丸となって相手に立ち向かいたい。

 南海(現ソフトバンク)と戦った64年の日本シリーズは五輪と重なり、不入りだった。10月1日の第1戦(甲子園)は観衆1万9904人。日本一が決まる10日の第7戦(甲子園)は五輪開会式当日で1万5172人だった。今年のシリーズは五輪閉幕後。阪神の奮闘で関西に注目と熱気を呼べるか。 =敬称略=
(編集委員)

続きを表示

「大谷翔平」特集記事

「野村克也」特集記事

2020年1月11日のニュース