野球という仕事 雄平が打った内角低めに「浮いた」スライダーとは

[ 2017年5月26日 10:30 ]

<ヤ・神8>3回2死二、三塁、藤浪から右前に2点適時打を放つ雄平
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 【君島圭介のスポーツと人間】ヤクルト・雄平の言葉に「?」となった。「ボールだったけど浮いてきたから」。5月20日の阪神戦(神宮)。0―1の3回2死二、三塁の場面で放った右前への2点適時打を振り返った言葉だった。

 「内角低めだったよね?」。投手は藤浪。6球連続で150キロ超の直球にファウルで粘り、2ボール2ストライクからの7球目。空気の摩擦音が聞こえそうな曲がりの鋭いスライダーが雄平の足元に落ちてきた。

 雄平が場面を勘違いしたのかと思ったが、もちろん違った。「頭の中にあった球。投手の心理としては、あとボール1個分低めを狙ったと思う。ワンバウンドでもよかったはず。そこに落とされていたら空振りしていた」。内角低めだが、雄平にとってはボール1個分浮いてきたイメージだったのだ。

 左腕から最速154キロを投じた雄平は、投手としてもプロで通算144試合に登板し、18勝を挙げている。打者に転向後、沖縄・浦添春季キャンプの室内練習場で居残りのティー打撃を行う姿を見た。ネット越しの打球が怖いと感じたのは、巨人時代の松井秀喜以来だった。今まで投手だったとは信じられなかった。

 その凄みが科学的に実証されたのは15年のオフ。ミズノ社が最新鋭機器を用いて雄平のバットスイングを計測した結果、ソフトバンク・柳田、日本ハム・中田を超える169・3キロを記録した。現役ナンバーワンのスイング力は「左投げ左打ち」に由来すると仮説を立てたが、雄平は否定した。

 「利き腕が左ということとスイングスピードは関係ないんじゃないかな。左は押し出しに使うかな。打者に転向したばかりのときは左方向にバットを押し出して内野安打ばかり狙っていた」。左打者は打席が一塁ベースに近い。まして俊足の持ち主である。打者としての雄平は三遊間への打球で安打を稼ぐ傾向にあったという。

 右方向に強烈な打球を心がけるようになったのは「チームに求められているから」という。野球は左回りのスポーツであるから走者を進めるには右方向の方が得点の確率は上がる。左打者なら引っ張り。藤浪から放った打球がその典型だった。

 あの打席、雄平は藤浪の球速に合わせてバットをわずかに短く持っている。「指1本分くらい?」と聞かれると「どうだっけ?覚えていない。感覚だから」と首をかしげた。バットの長さは失念しても低めに浮いてきた失投は見逃さなかった。

 雄平は「二刀流」ではなく、プロまで続けた投手経験により本来のスラッガーが開花した。そう思えて仕方がない。打者転向8年目の33歳、まだ成長は続いている。 (専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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