高校野球、議論呼ぶ「タイブレーク」導入検討 守るべきものは…

[ 2015年7月28日 11:30 ]

14年センバツ2回戦、広島新庄・山岡は15回を投げ抜く

 新たな100年に向け、高校野球に変革の波が押し寄せている。試合の早期決着を図り、選手の健康管理につなげる狙いで甲子園大会でも「タイブレーク方式」の導入が検討されている。延長戦における名勝負は、もう見られなくなるのか。直近の甲子園大会で、延長規定の15回引き分け再試合を演じたのが昨年センバツの桐生第一(群馬)―広島新庄(広島)だ。ともに2日間で2試合完投した両投手の言葉で、今後のタイブレークのあり方を考える。

 タイブレーク方式の導入に向けて、大きなきっかけとなったのが13年センバツで済美・安楽(現楽天)が5戦772球を投げ、国内外で議論を巻き起こしたことだ。

 同年夏から甲子園大会の準々決勝翌日に初の休養日が設けられ、タイブレーク方式の導入が議論されるようになった。14年の春季大会では一部都道府県大会で導入されたが、北海道や神奈川など導入を見送った地域もある。甲子園大会でも採用を検討するため、日本高野連では14年7月に全加盟校を対象にアンケートを実施。「甲子園につながらない大会での採用なら」などと条件付きでの消極的賛成が目立った中で同年11月、今春地区大会からの一斉導入を決定した。将来的には甲子園大会での導入を目指すというが、延長戦は過去に多くの名勝負も生んできた。さらに、3年生にとっては最後の夏の大会。「延長戦で決着をつけさせてあげた方がいい」という声も現場から上がるなど、いまだに賛否両論の状態は続いている。

 当事者である選手はどう思っているのか。14年センバツで桐生第一は、広島新庄と延長15回引き分け再試合で2日間にわたる激闘を演じた。2年生エースだった山田知輝は、計2日で24回275球を投げ抜いたが、延長15回を投げ終えても「まだまだ余力はあった」と振り返る。再試合前のキャッチボールはゆるく時間をかけて行い、じっくりとこわばった体をほぐした。体力温存のために軽いアップで終わらせず、あえてじっくりと時間をかけた。山田は再試合を散発3安打で完封している。

 くしくも山田はセンバツ後、関東大会準々決勝・佐野日大戦で導入されたばかりのタイブレークも経験。5―5で延長に突入し10回無死一、二塁からスタートしたタイブレーク方式で9点を失い5―14で敗れた。「最初から走者がいると慎重になる。あれが最後の夏だったら凄く後悔すると思う」と複雑な表情を浮かべる。

 一方、広島新庄のエースだった山岡就也(現国学院大1年)は「15回投げても体に負担は来なかった」。迫田守昭監督に日頃から給水のタイミングなどを細かく助言されていたこともあり、自らの体を守る意識も高かった。15回171球を投げた後は宿舎で酸素カプセルに入るなどしたが、再試合開始直後に「球が走らないなと思った」。再試合は8回完投も0―4で敗れて「試合後のインタビューで立っているのもきつかった」と振り返る。

 それでもタイブレーク導入については「延長戦(で決着をつける)の方がいいと思う。ちゃんと練習していれば、連投ぐらいはできます。いくら周囲が制度を変えて体を気遣ってくれたとしても、選手自身が自己管理をしっかりしなければ意味がないと思う」とし、自己管理の重要性を強調。そのうえで「体の構造や疲労回復の具体的な方法など専門的な知識を教えてもらえる場があったらいいと思う」と球児らへの周囲のフォローを求めた。

 日本高野連は各地区の代表者と満場一致での導入を目指し、今後も議論を続けていく方針。高校野球は、大きな転換点を迎えている。(松井 いつき)

  ◇第86回選抜高校野球大会 (甲子園)
 ▽2回戦 (14年3月29日)
桐生第一  000 000 010 000 000―1
広島新庄  010 000 000 000 000―1
 (桐)山田―小野田
 (広)山岡―田中啓
 ▽2回戦再試合 (同30日)
広島新庄 000 000 000―0
桐生第一 100 000 30X―4
 (広)山岡―田中啓
 (桐)山田―小野田

 広島新庄が2回に先制。桐生第一は8回2死一、三塁から柳谷の左前打で同点も、以降はともに得点機を生かせず。広島新庄・山岡は171球、桐生第一・山田は163球でともに15回完投。翌日再試合は、桐生第一が初回に柳谷が先制中前打。7回にも3点を奪った。山田は112球で3安打完封。山岡も133球で8回を投げ切った。

 ▽タイブレーク 時間制限がない野球やソフトボールなどにおいて延長戦で人為的に走者を置いて早期決着を図るルール。高校野球では延長10回無死一、二塁、もしくは延長13回無死一、二塁からのスタートを各地区連盟が選択できる。社会人野球の都市対抗では03年から採用されており国際大会は08年北京五輪、WBCでも09年の第2回大会から実施されている。

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