気仙沼向洋エース 夢のマウンド「野球って素晴らしい」

[ 2011年8月6日 11:56 ]

始球式でバランスを崩す気仙沼向洋高の斉藤弘樹投手

第93回全国高校野球選手権大会

(8月6日 甲子園)
 宮城県気仙沼向洋高の3年生エース斉藤弘樹選手(17)が、6日開幕の夏の甲子園大会で始球式のピッチャーを務めた。津波で校舎やグラウンドは壊滅。宮城大会では実力を出し切れずに2回戦で敗退した。悔しさを胸に立った夢のマウンド。思い切り直球を投げ込み、「あらためて野球って素晴らしいと思った。この先も野球を続けたい」。晴れ晴れとした表情を見せた。

 満員の観客で埋まった第1試合の開始前。斉藤選手は、背番号がない上下白のユニホーム姿で登場。マウンド上で何度もボールを握りしめ手になじませた後、力強い速球を投げ込むと、大歓声が上がった。

 宮城県気仙沼市の海岸からわずか約300メートルの気仙沼向洋高。毎日、夜10時まで練習を重ねたグラウンドは、がれきに埋もれたままだ。近隣校で場所を借り、全国から野球用具の支援を受け、本格的に練習を再開したのは5月だった。

 ブランクを取り戻そうと急ピッチで投げ込み、右ひじの靱帯を痛めてしまった。6~7割の力でしか投げられないままの宮城大会。190センチの長身から繰り出す球は、次々相手打者にはじき返された。

 同校は昨夏の宮城大会で準優勝。今年は被災地からの甲子園出場が期待されていた。敗れた試合の後、震災の影響を問われ「言い訳はしない」。悔し涙が流れた。

 震災を機に「人の役に立ちたい」と考え、卒業後は父親と同じ消防士になるつもりだった。しかし最後の夏が不完全燃焼に終わり、大学や社会人で野球を続ける道もあると心は揺れる。

 あこがれの舞台での「登板」が決まってから、投球練習を再開。「大観衆が詰めかける甲子園で投げたら、(進路を決める)何かのきっかけになるのでは」。17歳は胸の内を明かしていた。

 始球式後、「最後の一球を甲子園で投げることができて良かった」。投球の際にマウンドでつまずいてしまい、「ちょっといいところを見せられなかった」と照れ笑いも。

続きを表示

2011年8月6日のニュース