【内田雅也の追球】「10秒70」好中継の完成品 「カットまで素早く低く、正確に」8―6―2では最速

[ 2023年8月9日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7―6巨人 ( 2023年8月8日    東京D )

<巨・神>8回、岡本和の打球をさばいた近本は内野に返球(撮影・大森 寛明)
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 綱渡りのような阪神の逃げ切りで、光ったのは巨人の同点生還を阻んだ中継プレーだった。

 8回裏、7―5と2点差とされ、なお無死一、二塁。岡本和真に左中間突破の二塁打を浴びた。二塁走者に続き、一塁から本塁突入した秋広優人を中堅・近本光司―遊撃・木浪聖也―捕手・梅野隆太郎の中継プレーで刺したのだ。判定は一時セーフと下されたが、リクエストのリプレー検証でアウトに覆った。

 手もとのストップウオッチで計ると、岡本インパクトから本塁タッチまで10秒70。俊足走者並みの好タイムだった。

 左中間フェンスに達した打球は左翼シェルドン・ノイジーも処理できたが、近本に譲って素早く返球した。V9巨人も左中間、右中間打球は中堅・柴田勲が処理すると決めていた、と『ミユキ野球教室』(日本テレビ系)で参謀役のヘッドコーチ・牧野茂が語っていたのを覚えている。

 カットマンの木浪はワンバウンドで本塁返球。しかも、コリジョンルール以降、走路を空け、ブロックもできない捕手のため、やや三塁寄りに投げた。捕球した梅野のタッチも素早かった。

 昨年秋、監督に復帰した岡田彰布の下、繰り返し繰り返し練習してきたのが、この内外野の中継プレーだった。キャンプで岡田が指示していたことは、ただ一つ。「カットまで素早く低く、正確に返せ」。長い距離を投げるよりも速さ、正確さを追い求めていた。

 DeNAとの開幕カード3戦目(京セラ)でも同じく左中間打球に8―6―2の好中継で一塁走者・佐野恵太の本塁突入を阻止している。この時の遊撃手は小幡竜平。タイムは10秒82だった。

 この日の10秒70は8―6―2では、ほぼ最速と言える。いわば中継プレーの完成品だった。

 6日DeNA戦(横浜)に続く1点差勝利。これで1点差試合は18勝7敗(勝率・720)と勝ち数も勝率もリーグ最高となった。同じことを再び書く。今や阪神は「競り合いで終盤を迎えたら負けない」という自信がある。岡田も「試合するごとに強くなっている」と認めている。

 この日の7点のうち2死後に奪ったのが4点。また本塁打を含め2ストライク後の打点が4点を数える。「あと1死」「あと1球」の窮地からの勝負強さ、粘り強さもついてきた。「アレ」への機運の高まりを感じている。=敬称略=(編集委員)

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